第9話

「なーるほど、昨日会ってたんだね!」


「ふっ新人の動きなんて簡単に予測できる」


「まぁ私たちも魔力測定やったしね…で、変なことされなかった?スノウちゃん」


「…」


「…?いや、特にされてないと思うけど」


「そう?なら良かった。こいついたずら好きだからさ。なんかあったら言ってね!叱っとくから!」


ん?いたずら…?


「あ」


「え?」


「…」


「ちーりーいー?」


「か、勘違いしてもらっては困る。あれは労いというかだな」


「へー、スノウちゃん具体的には?」


すごい目でこちらを見てくるチリィ先輩…あっリーテに目隠しされた。


「…背中に氷入れたり、とか?」


「裏切ったなスノウ!おのれ!」


「まーたそんなことやってあんた!あれ地味に嫌なんだからね!」


「あぅあぅあぅ」


わしゃわしゃと髪と耳を荒らされうめく猫耳少女。


「まぁまぁ、少しびっくりしただけだし」


「甘やかしたらだめ!ペットボトルの中身凍らせて飲めなくしたり、床の一部凍らせて滑らせて来たり、ほんっと地味に腹立ついたずらやめなさい!」


「あぅあぅあぅ」


 そんなことしてるのかこの子…。いたずらの中身はかわいげあるけども…。


「えっと、チリィ先輩今日はどんなことを教えてくれるんですか?」


「む」


「ふっ、離せリーテ、仕事だ」


 やや強引に話を変える。魔法のご教授を頂けるということでいたずらに関しては帳消しにしましょう。


「かかってこい、スノウ。話はその後だ」


「…分かった」


 見学しているリーテから距離を取り、銀槍を作りだす。小柄な少女を相手にするのはなんだかやりづらいけど、リーテとの模擬戦で学んだ。相手は今の私よりずっと強い魔法少女だ。遠慮はしない!


 最速最短で距離を詰め、真っすぐに突きを入れる。全長40㎝の白銀の槍は突如現れた氷の壁に突き刺さり、チリィには届かない。


 氷壁に埋まって抜けなくなったそれを見捨て、即座に新たな銀槍を作る。

 後ろに跳んだチリィとの開けられた距離を詰めようとし、飛んでくる氷塊の対処に立ち止まらざるをえなくなる。


 チリィの周囲に冷気が集まり、直径20㎝くらいの氷の塊が生み出される。そして生み出された端からスノウに向かって氷塊が射出される。


(ぐぅっ、重い…!)


 絶え間なく飛んでくるそれを迎撃、砕いていくも一発一発の威力が高く、段々と後ずさっていく。距離も消耗度も開く一方だ。これ以上受けてられない。


 正面突破を諦め、避けることを念頭に置いて動く。リーテとの戦闘訓練でそこそこの動きはできるようになった。新入りの魔法少女としては比較的高い身体能力もスノウの回避行動を助け、どうしても避けられないモノはまともに受けず、弾くことでやり過ごす。


「スノウちゃん遠距離攻撃にはジグザグに動いて!」


「分かった!」


 助言に従って距離を詰める。左左、次は右。落雷のように不規則な軌道をとって進むと無理に回避行動をとらなくても当たらない物が増えた。狙いを付けにくい動きなんだ。


このまま距離を詰めて…


「うわっ!?」


突然足が滑り派手に床の上を転がる。なんとか体勢を整えてっ!


「むり、おわり」


「!?」


 四方八方に氷柱が突き刺さり氷の牢獄を作り出す。この短い槍ですら十全に振る広さもなく、抜け出すことが出来ない。


「…うりうり」


「冷た!」


 じゃりじゃりと細かな氷が降ってくる。気分はまるでかき氷を入れる器の様…。


「チリィ?」


「待った。これは必要なこと。そう、教訓」


「ったく、先輩なんて呼ばせてるんだからちゃんと先輩としての仕事しなさい」


「むぅ、わかってる」


そう言って私を捕らえていた氷の檻が解かれる。


「スノウ、槍を作ってみて」


「はい」


 そう言われて、持っていた銀槍を左手に持ち替え、右手の掌の上に白銀色の流動体をだし、槍の形を紡ぐ。


「遅いし弱い。もっと無駄遣いして魔法に慣れて」


「無駄遣い?」


「生成魔法は特にやれることが多い。同時に作る数も、作る早さも、大きさも形も、作る場所も、なんだって調整できる」


 たしかに、さっきの戦闘を思い返すとチリィの生み出す氷は色んな形を作っていた。


「剣にも盾にも足場にもなる。武器としてしか使わないのはもったいない」


「なるほど…」


「だから無駄遣いして使い道を増やすこと。チリィがいつもやってるのはいたずらじゃなくて訓練」


どう?と言わんばかりにリーテに顔を向けている。


「いやいたずらでしょ」


「…」


「…」


「でもスノウが先に覚えるのは速さと大きさ。今のままじゃ武器とも言えない」


「あっはい」


逃げた…。まぁそれは置いておこう。


「速さと大きさといってもどうすれば?」


「魔法は使えば使うほど強くなる。速さに関しては慣れだけど、大きさなら工夫できる」


 ほいほいっと生み出された2つの氷塊。チリィが両手の人差し指を交差させると共に氷塊同士がぶつかって結合し、1つになる。2つを合わせて大きくなった1つに。


「おお」


「やってみな」


 チリィの向ける視線の先には両手に持った2本の槍がある。

二つを重ね、結合するのをイメージ…するが、上手くいかない。

違う。こうじゃない、既に完成した形から動かせない。やり方はわかる、気がする。けど、知っていることを思い出せないような歯痒さがある。


 どうすればいいんだろうか…思い出せるような、思い出せないような、こういう時はどうするんだっけ…。唸りながら悩んでいると、不意に脳裏に景色が浮かぶ。たくさんの光が集まって形を変える光景が。


 そうだ、完成した形から動かせないなら、一度戻してしまえばいい。形を作る前の状態に。銀槍が紐解かれ、白銀の流動体に戻っていく。2つの流動体は合わさり、1本の槍を紡ぐ。


「出来た」


 刃渡り30㎝柄50㎝の銀槍が姿を現す。魔獣を相手にするには未だ足りない。けれど確かに一歩前進した。少なくとも全長40㎝の槍とも言いずらいようなモノよりずっといい。


「おお!やったねスノウちゃん」


「おけ。覚えてる内にもっかいやっとけ」


「…」


言いようの無い気持ち悪さがある。なんでこのやり方が浮かんできたのか。私は、前にも魔法少女になったことがある…?いやそんなことはない。ないはずなのに、そう言い切れない。


「スノウちゃん…?どうかした?」


「っいや、なんでもないよ。やってみる」


黙り込んでしまっていたようだ。ひとまず違和感は放っておく。

銀槍を脇に置き、もう一度作ろうと試みる。


「あの、チリィ先輩」


「どした」


「これ以上出せないんですけど…どうしたらいいですか?」


 右手から出せる流動体、それは40㎝の銀槍を作った時以上に出すことができない。いや、保持できないと言うべきか。これ以上は制御下を外れてしまう。

 そもそもここから二つ目を別で作ろうとすることができない。


「スノウ、自分が体のどこから魔法を使おうとしてるか分かるか」


どこから…それは、掌から…?


「生成、放出魔法の使い手は決まった場所からしか魔法を発現出来ない事が多い。チリィは耳と尻尾」


チリィが言う。右で10個。チリィの右側に氷塊が瞬時に10個出来上がる。

チリィが言う。左で10個。チリィの左側に氷塊が瞬時に10個出来上がる。

チリィが言う。尻尾で10個。チリィの背後に氷塊が瞬時に10個出来上がる。

計30個の氷塊がチリィの周囲に浮かぶ。


チリィが言う。


「スノウ、右で1つ」


「左で…1つ…」


 今まで意識していなかった左手からの白銀の生成。いざ行ってみれば、いとも容易く二つ目の流動体が出せた。2つを合わせ1本の銀槍を生み出す。


「チリィも最初は全部で3つしか出せなかった。力を付ければその槍ももっと強くなる」


「おおーやっぱ本職は違うね~。私じゃアドバイス出来ないことばっかだ」


掲げる銀槍の穂先が光を反射して輝く。

 間合いも広がって戦い方も変わってくるはず。今教えてもらったことも復習しておきたい。


「ありがとうございますチリィ先輩。模擬戦、もっかいお願いしていい?」


「ふ、かかってこい」

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