大騒動
水瀬 遥side。
───時間が止まった。
そう錯覚しちゃうくらい、誰もその場から動けずにいた。
皆、目の前の光景に釘付けだった。
かという私も、その光景に釘付けになっていた。
私達の・・・私の湊が、生徒会長とキスしてんだけど?
「・・・なにして、んだよ」
なんで・・・キスしてんだよ。
そいつは私・・・俺の大切な人なんだよ。
小さい頃から───俺はひとりぼっちだった。
この性格のせいもあると思うが、俺は男女関係なく接していたんだ。けど・・・それが癪に触った奴らがいた。
俺と同じ女達だ。
そいつらは男と仲良くしてた俺を嫌って、執拗にいじめるようになってきた。
もちろんその時の俺は全く気にしてなかったし、どうせすぐ終わるだろって思ってた。
・・・そんなことあるはずないのに。
けど、終わると信じて俺は耐えていた。
どんなに俺の事を馬鹿にしても、どんだけモノを盗られても・・・俺は我慢していた。
勿論終わるわけなんてなく、どんどんイジメはエスカレートしていったんだ。
俺は孤立した。
ひとりぼっちになった。
ありもしない噂を広められて、勝手に不良扱いされた。
だから・・・耐えきれなくなった俺は、少しでも自分を強く見せるために口調を変えた。
小学生ぐらいの時だったとおもう。
結構怖がられた。
お陰で・・・本当にひとりぼっちになっちまったんだ。
きっと俺は、誰とも仲良くできないんだって・・・そう思ってた。
───湊と雫が現れるまでは。
初対面は酷いものだった。
誰にも相手されずに教室の端でやさぐれてる俺に、いきなり湊が話しかけてきたんだ。
「なんでひとりなの?」
不思議な奴だった。
湊は小学二年生の時に、いきなり転入してきたやつだ。
なのに一気にクラスの中心になった。
それは湊の魅力・・・あの可愛さと性格、そして運動神経の良さと頭の良さもあると思う。
だから最初は全く相手してなかった。
こんなに何でも出来るやつが、俺みたいな中途半端で心の弱いやつに話しかけてくんなって、そう言って遠ざけていた。
今考えれば結構酷かったと思う。
なのに湊のやつ、何度も何度も俺に話しかけてくるんだ。
「遥ちゃん、一緒に遊ぼうよ」
「その服可愛いね」
「昨日のテレビ見た?」
そんなどうでもいいこと。
それをネタに何回も話しかけてきたんだ。
だから言ってやった。
「俺に関わるな」って・・・。
そしたらなんて言ったと思う?
「友達なんだから関わるに決まってるじゃん!」
なんて、言って気持ちのいい笑顔で笑ったんだ。
───何故かちょっと、ドキッとした。
俺はそれを誤魔化すように、何言ってんだって思わず笑っちまった。
そんな俺を見て湊がまだニコニコしながら言った。
「遥ちゃんってやっぱり、笑った方がかわいいよ!」
───何故かまた、ドキッとした。
同時に思ったんだ。
こんな脳天気で危機感ないやつ、放っておいて大丈夫なのか?
それからは早かった。
俺は湊と話すようになった。
湊を守るためっていう名目で、俺から湊に話しかけた。
その度に嬉しそうに笑ってくれるもんだから、俺も嬉しくなって会話を続けていくんだ。
喋りすぎて先生に怒られたこともあったな。
そんな時に俺たちの輪に入ったのが───雫だ。
湊がニコニコしながら、「僕の友達なんだ!」って俺の元に連れてきたんだ。
初めて見た時は、どんな根暗なんだって思った。
なんでこんな根暗で眼鏡かけてる奴と一緒にいるんだって思った。
嫉妬してたんだ俺は。
俺、なんていう一人称も湊は気付いていたのか「僕の前で取り繕わないでよ!友達じゃんかよぅー!」なんて言って笑っていた。
だから一人称も私に戻したし、湊の前で何も取り繕わないことにした。
それもこれも、湊の隣は俺だけで、これからも湊はずっと俺の隣にいるって思ってたからだ。
その時にはもう、男に興味なんてなかった気がする。
とにかく俺は裏切られたって思った。
でも分かったんだ。
雫のやつもきっと裏切られたって思ってたはずだ。
だってアイツ、湊と俺が楽しく会話してたら睨むんだぞ?
その時に知った。
こいつぜってぇ友達いねぇって。
だからしょうがなく仲良くなってやることにした。
初めは挨拶。
次は遊びに誘った。
そしたらいつの間にか雫と会話することも増えて、気付いたら俺は───ひとりぼっちじゃなくなった。
俺は、湊と雫に救われたんだ。
なのに・・・なのに・・・。
なんで───生徒会長なんかと?
俺は・・・私は昔から我慢してきた。
自分のことならある程度耐えられた。
でもこれは・・・許せねぇよ。
私の・・・私達の湊を、なんでアンタが取るんだ。
抑えきれない想いが、蓋をしていた感情を押し流す。
私は我慢出来ずに走り出した。
───黒瀬 雫side。
私は目の前の光景が信じられずに、思わず手に持っていたトレーを落としてしまった。
でも、これは仕方の無いこと。
なんで・・・私の、私達の湊に
隣の遥も信じられないって顔してる。けど、それ以上に私の心はぐちゃぐちゃになってる。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして・・・?
・・・湊は私の恩人だ。
湊は小さい頃から可愛い子だった。
しかも性格も良かった。
こんな教室の隅で本読んでるやつに、湊は話しかけてきた。
私には友達がいない。
喋るのも苦手、友達付き合いも苦手。
だから友達がいない。
だから湊が転入してきたことも、だいぶ後に知った。
最初は、なんて可愛い子なの・・・そう思った。
でも気にせず、隅で本を読んでいた。
友達は欲しいけど、自分から作れるほど私は喋れない。
そう諦めて、ひっそり大人しく本を読んでいた。
なのに───湊は私に話しかけてくれたんだ。
「ねぇねぇ、なんの本呼んでるの?」
他愛もない会話だった。
それなのに私は驚いて、思わず冷たく返してしまった。
「ん、ただの小説。別に面白くないから気にしないで」
本当は話しかけてくれてちょっと嬉しかった。
だから冷たく返してしまったことにちょっと後悔していた。
けどめげずに湊は私に話しかけてくれた。
「今日はなんの本読んでるの?」
「この本買ったんだー!」
「たまには外にも出よーよ!」
何度も何度もしつこいくらいに私に話しかけてくれた。
おかげで私も、徐々に喋れるようになってきた。
時折湊が、ニコニコしながら家で起きた事件を話してくれるのが好きだった。
・・・いや、湊の笑顔を見るのが好きだった。
湊の笑顔を見るだけで、何故か元気になる。
胸がポカポカするような温かさに包まれるから。
そんな風に私と話してくれるから、私は小さいながらこう考えた。
湊は私だけの友達。
私と湊は一心同体。
そう考えていた。
なのに───湊がある時、ニコニコしながら「僕の友達なんだ!」って言って、遥を連れてきた。
私は裏切られた気分になっていた。
どうして?
友達は私だけじゃないの?
なんでこんな不良みたいな人と一緒にいるの?
疑問は尽きなかった。
でもそれはきっと、遥も同じだったと思う。
私みたいな根暗となんで友達なんだ、って湊に視線を向けていたから。
だから最初は話しかけなかった。
なのに湊と遥はそんなこと知る由もなく、目の前で仲良さそうに話しているのを見て、思わず遥を睨んでしまった。
ちょっと反省した。
そうしたら、何故か遥は急に私に話しかけてくるようになった。
最初は挨拶。短いものだった。
けれどどんどん会話していく回数が増えて、いつの間にか喋れるようになった。
思い出す度に思う。
私は湊と遥に救われたんだ、なんて。
それなのに・・・それなのに。
なんで
頬が熱くなる。
許せない、何度も思う。
でも、目の前で我慢出来ずに生徒会長に詰め寄る
許せない。
私と遥の湊を取り上げようとするのは許せない。
けど・・・それは湊が悲しむ。
だから私は、にこやかな笑みを携えて遥と対峙する生徒会長に向けて、ゆっくりと歩き出した。
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