結末
「う、嘘つきはどっちの方だ!」
「どうせお前ら二人がグルなんだろ!」
・・・あーあ、僕せっかく助け舟出したのに。
時刻は朝。
多くの人が乗車する電車の中。
そこで僕は成人した男性二人と言い争っていた。
「グル?そんな証拠はどこにもないし、それを言うなら君たちのお尻をその女の子が触ったっていう証拠もないよ?」
まぁ、僕も触ってない証拠動画なんてないんだけどね?
でも現状、この男性たちからしたら僕の方が証拠を多く持っているから、僕が優勢に感じているはずだ。
おかげで男性たち2人はすこぶる顔色が悪い。
ハッハッハ、馬鹿め。
痴姦冤罪なんてしようとするからだ!
「あ、あぁもうダメだよキミ!」
「こういう男の人は怒らせちゃ・・・」
そんな僕達の様子を見て、周りの女性陣は騒然としていた。
あ、何人か僕を助けようと立ち上がってる・・・。
取り押さえられていた女の子なんかは、涙も引っ込めて期待の眼差しで僕の方を見ている。
パチッ、とウィンクしておいた。
きっと大丈夫だ。
このままいけばこの子の無実は晴れる。
そんなことを考えながら、目の前の男性二人を見据えていると・・・。
「な、ならその証拠とやらを見せてみろよ!」
「そうだそうだ!」
未だに抵抗していた。
どうやら僕の証拠動画はハッタリだと思っているらしい。
まぁハッタリなんだけどね・・・でもこれはこれでありがたいかも。
男性達が僕の持っている証拠に対して半信半疑な方が───釣れる、もんね。
「・・・いいですよ。ただし、見せるのは今ではなくて警察の前です」
「な、なんでだ!」
「やっぱり嘘なんだろ!?なぁそうだろ!!」
僕の一言で2人は動揺する。
まぁ当然だよね。
僕の証拠を疑っているとはいえ、もしその証拠が本当だったら確実に男性達の立場が下がる。
対して自分たちは触られたという言葉でしか証拠を提示できない。
いくら男が優遇されてるからって、流石に証拠は証拠として認められるよね・・・よね?
まぁそれに僕男だし?
何かあれば僕の方も多分大丈夫なず。
そのためにトーカさんも呼んでるんだしね。
「嘘かどうかは警察が決めるから・・・嘘だと思うんだったらそれでいいと思うよ?僕はそのまま証拠として提出するだけだからさ」
嘘だけど。
思いっきり嘘だけど。
母さんに嘘はいけないことって小さい頃から言われ続けたから、こういう時でも嘘をつくのはやっぱりいい気分じゃない。
人助けって言ったら母さん許してくれるかな?
「ぬ、ぐ・・・」
「女の・・・くせにぃ!」
僕が口からでまかせを言っていると、どうやら勝ち目がないと悟ったらしく、悔しそうに顔を歪ませていた。
・・・これで一件落着かな。
そう思って、録音を切ろうとした瞬間───「お、女のくせにぃーーー!」───片方の男の人が殴り掛かってきた。
「へっ、?」
まさか実力行使に出てくると思わなかった。
言葉じゃダメだからって、さすがに短絡的すぎるよ君たち・・・。
でも殴り慣れてないのか、かなり遅く感じる。
これが走馬灯・・・?
なんて巫山戯られるくらいだ。
でもどうしよう。
大人しく殴られるべきなのかな?
・・・いや、さすがにそれはダメか。
ッ!そうだ、殴られたらダメだ!絶対痛いもん!
「やぁっ!!」
なので当たる寸前で拳の軌道をずらして、お腹に軽くパンチ。
えい。
「ングゥォッ!?」
すると男の人は白目を向いて、僕の方に倒れかかる・・・ぐぉぉ、ちょっと重いです。
この人一体何キロあるんだ?
「あの子・・・やっちゃった?」
「わ、私のせいで・・・ひぇぇ」
くっ、こんなので重いって感じるとか、流石に運動不足なのを否定できないや。
・・・そういえば、トーカさんが倒れてきた時は僕も一緒に倒れてたよね?
体幹が弱くなった?
いやそれよりも───身体能力が低下した、の方が正しい気がする。
前よりも身体動かしにくく感じるし、ちょっとしたことで息が上がっちゃう気がする。
一体いつから?
「・・・まぁ、今考えても仕方ないか」
「ヒィっ!お、お前!俺たち男に手を出したな!?こ、これでお前の負けだ!!」
脚をプルプルさせながら、僕に抱えられた男性を見つめるもう一人の男性。心なしか声も震えてる気がする。
まぁ、確かに女性が男性を殴ったら普通に大罪モノだが・・・でも僕男だしなぁ。
男同士なら普通の法しか適用されないなら、こういうのも一方の男性だけが悪く言われる、なんてことも無い。
トーカさんにきっとめっちゃ怒られるだろうけど、それはしょうがないって割り切ろう。
それにさきに手を出そうとしたのは僕じゃなくてこの人だから、情状酌量の余地はある・・・よね?
「ごめんなさい。本当はこんなに手荒いことしようと思ってなかったんだけど・・・ここで止めなかったらこの人もっと暴れそうだし、最悪逃げ出しそうだなって・・・」
ゴトンゴトンと揺れる電車内で、担いだ男の人を近くの空いた席に座らせて、先程とは打って変わって静かになった、ペタリと座り込んだまま俯いているもう一人の男性に話しかける。
・・・が、返事がない。
よく見れば目が死んでいた。
「ま、まじ?」
そんなに僕怖かった・・・?
なんだろう、ちょっとショックなんだけど。
と地味に
ダメージを受けつつ、目が死んでる男性と気絶している男性を両肩に抱えて、そのついでに、取り押さえられていた(今は解放されてる)女の子にも目配せをする。
『青峰学園前~青峰学園前~、降り口は左側です』
前痴姦された時もここで降りたし、僕の記憶がある正しければこの女の子は生徒会役員だったはず。
・・・そんな子が僕に痴姦?とかちょっと複雑ではあるけど、今回の痴姦冤罪で流石に懲りたよね?
「あ、あのぉ・・・その、私も同行した方がいいですよね?」
「もっちろん!一応知り合いの警察官の人に来てもらってるから、君の意見もちゃんと聞いてくれるはずだよ」
「え!?知り合いの警察官・・・?そこまでしてくれたんですか!?」
驚いた顔で僕ににじり寄る女の子。
そこまでって、そうでもしないとあんな状況から助け出せるわけないじゃんか!
この子は本当にさっきまでの自分の立場を分かってるのかな?
「詳しいことは後で話すよ。とりあえず、外に出よう・・・えと、君の名前は?」
「あっ、え、えと───
ひとまず名前を聞いあと、両肩に男性二人を担ぎ、不安そうな顔をした女慰さんらを引き連れて駅のホームを出る。
するとそこには、目が死んでる警察官と・・・何故か全力で僕から顔を逸らしているトーカさんがいた。
・・・きっと昨日のことで気まずいんだと思う。
なのによく来てくれたなほんとに。
「み、みみみっ、湊ッ!くん!」
「は、はい!」
見ての通り、どう考えても昨日のことを気にしてる。
いや、気にしすぎてる。
耳めっちゃ赤いし、目線もチラチラ合わせてくるし・・・何よりめっちゃモジモジしてるし。
・・・どうしよう、なんでこんなに可愛いだろうこの人。
「そ、その男性達二人が今回の事件の発端だろうか?」
「はい、そうです。一応、事の顛末は既にメールした通りなんですけど・・・正直僕も女の子───女慰さんが触ってないということしか知らないですし、その証拠なんてのもないので・・・でも、トーカさんならしっかり聞いてくれると思ったので、連絡しました」
「ッ!?そ、そうか!私ならそうしてくれると思ったからか!いやいや全くその通りだ、うんうん。むしろ私以上の適任はいないだろう!」
僕がちょっとした説明をすると、どこか嬉しそうにニヤニヤしながらクネクネしている。
あ、何故か相良さんの目がもっと死んでいく・・・相談乗った方が良さそうな目してるけど大丈夫なのかな?
「え、ちょっと待ってください?・・・証拠ないんですか?」
「えと・・・ごめんなさい。僕があの場で言った言葉の殆どは嘘です。動画なんてとってないですし、勿論君が配信者かどうかも知りませんでした!」
女慰さんが信じられないようなモノを聞くように僕に聞いてきたので、僕は正直に白状した。
僕の方に乗っかっている二人は動く気配すらないから、多分聞かれても問題ないはず。
「・・・バレてないならいいけど、つまり証拠が無くなったってことになるから喜べない」なんて言ってるけど、一応録音とかしてるから、痴姦冤罪なのは証拠がとれてる。
僕はそのことも全て、トーカさんに話した。
「ふむ・・・まぁ、女慰くんが無罪になるのは間違いないな。問題はその痴姦行為だが・・・故意的か故意的ではないかと言われれば、かなり故意的に近い」
てことはつまり。
「有罪になる確率が高いと」
「あぁ、そうだ」
「「ゆ、有罪?」」
あ、起きた。
どこまで聞いてたか分からないけど、僕とトーカさんの今の会話から自分達が有罪になる確率が高い、という部分は聞いていたらしい。
急に肩の上で暴れだした。
「なっ!こ、こら!暴れないの!」
「は、離せ!離してくれぇー!」
「頼む!見逃してくれないか!」
・・・逃すも何も、元はと言えば自分たちが悪いのに。
この態度に女慰さんと僕はもちろん、トーカさんまで厳しい眼差しを向けるようになった。
まぁ、許すかどうかを判断するのは僕じゃなくて、被害者の女慰さんなんだけどね。
「ねぇ、君はどう思う?」
「へっ!?私ですか!?」
急に振られてビックリする女慰さん。
少し喋り慣れてないのか、アワアワと僕と男性二人に視線を向けていったりきたりしていた。
「・・・被害者は僕じゃなくて女慰さんだからさ。僕は女慰さんを助けただけに過ぎないし、そういうのはやっぱり、実際に嫌な思いをした君が決めないといけないと思うな」
「安心していいぞ。君がどうしたいかを私たち警察は尊重しよう」
僕とトーカさんで助け舟を出す。
抱えられてる二人は青白い顔を通り越して、もはや絶望しちゃってるね・・・でも自業自得だもーん。
逃げないように再び抱え直して、女慰さんの答えを待つ。
「わ、私は──────」
散々悩みながらも、彼女が出した答えは。
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