特異点


人生は何が起きるか分からないってよく言うけど、まさかそれが僕にも訪れるとは思わなかった。


「で?言い訳は以上か?」


ドンッ!とまるで尋問してくるかのように机を叩きながら僕を睨み付けてくる女先生に縮こまる僕───春峰 湊17歳。


「い、いやでも!ほんとに僕は何もしてなくて!」


「嘘をつくなァっ!!」


「ひぇっ!?」


またまたドンッと机を叩く先生。

どうやら僕は信用されていないみたいだ。


まぁでも確かに、僕が逆の立場なら信じないよね・・・・・・だって───。


「じゃあなぜ男の子きゅん達はグラウンドで鼻から血を流しながら倒れていたんだ!!おかしいだろうが!!」


「そんなこと僕が言いたいですよぉっ!!!」


ぐぬぬとお互い1歩も譲らず睨み合う僕達。

対立しあう僕と先生の話し合いは、どうやら平行線みたいだ。


そうなれば仕方ない。


ふっ、やれやれと首を振りながら、この取り調べ?の時間が伸びてしまう覚悟を決めた───その時だ。


コンコンコン、と戸を叩く音ともに───「失礼します」という声が、戸の奥から聞こえてきた。


暫くしてその人物が、ドアノブを捻り中に入ってくる。


「忙しいところ大変申し訳ない。早速ですが、春峰君を借りても宜しいですか?」


「・・・・・・今取り調べ中なんだが?要件はなんだ。言ってみろ青峰アオミネ


いきなり入って来て早々、先生へと話しかける・・・・・・青峰さん?は、の髪を柔らかに揺らしながら、どうやら生徒会に所属して居るらしい花の紋様を付けていた。


ん?待って?

青峰・・・・・・生徒会・・・・・・生徒会?


っあ!?この人もしかしてっ!?


「要件、ですか・・・・・・ではここは、この学校の生徒会長としての私の───青峰アオミネ春陽ハルヒたっての顔を立ててもらいたい」


と、先生に向かってそう告げた。


にこやかな笑みを携えたまま、先生に物怖じせずに堂々とした態度を崩さないのは、流石我らが生徒会長と言うべきなのかな?

でもなんだろ、ちょっとドジな姉さんと同じ匂いがする。


それに姉さんばりにスタイルも顔も整ってるし・・・・・・ふむ、流石我らが生徒会長───眼福です、とてもえっちです。


なんて僕が一人拝んでいる時も、事態は進む。


「ほう?として・・・・・・か。わかった、良いだろう。私が許可する、そして余計な詮索もしないと誓おう。だからとっとと春峰を連れて行け」


「聡慧な先生で私も助かります。それでは───春峰君、行こうか」


「・・・・・・え?あっ、はい!」


と、いきなり手を掴まれて生徒指導室から退去させられる僕。

何だろう、全く事の全容を把握出来ない会話内容だった。


もしかしたら、聞いちゃダメなやり取りだったのかもしれない。


「あ、あのー?」


なんて考えつつも、一先ず僕の手を掴んで離さない青峰生徒会長に問いかける。


「・・・・・・」


おうふ、無視かな?

これが遥と雫だったら、すぐさまにスマホの閲覧履歴を調べてその場で読み上げる刑を執行してたんだけど・・・・・・うん、無理だねっ!!


あ、でもあの二人なかなかえげつない事を調べててビックリしたんだよねぇ・・・・・・この前なんかは特に───「なぁ、春峰


「ッ!?は、はい!!」


いきなり名前を呼ばれ、思わず言葉に詰まる僕。

気付けばいつの間にか、青峰生徒会長と僕の歩みは止まっていた。


「君は・・・・・・男の子は、好きか?」


くるりと体を反転し、僕の目を覗きながら問いかける青峰生徒会長。

そこで僕は驚愕の事実に気付く。


・・・・・・おっぱいが、えげつねぇ!!!!

めっちゃ!揺れてる!!


と、1人盛り上がる僕。


「・・・・・・聞いているのか?」


「っえ!?は、はい!勿論好きです!」


おっと、どうやら生徒会長である青峰先輩の仙πをガン見しすぎたみたいだ。

お陰で全く話が入っこなかった。


聞き返したいけど・・・・・・うん、めっちゃ真剣な顔してるよ。


取り敢えず好きだって言っといたけど・・・・・・なんか、生徒会長すっごく残念そうな顔してる・・・・・・?


「あっ、や、やっぱり苦手・・・・・・かも?」


咄嗟に言い直す僕。


今思い返せば、僕の取った行動はかなり悪手なのかもしれない。


「おぉ!良かった良かった!しているようでなによりだ!」


「あ、あはは」


乾いた笑いしか出ないというのはこういうことなんだと思う。


本当に困った。全く何の話をしているか分からないや・・・・・・。


「そうかそうか!実は私も苦手───いや、嫌いでなぁ。だがなかなかどうして共感出来る奴が居なくて困っていたんだ。まぁ、春峰くんにとっては当たり前かもしれないが、仲間ができて嬉しいよ」


そう言って、再び僕の手をガシッと握りしめながら力説してくる生徒会長。


ほんっっっとに申し訳ないけど、何が苦手なのか分からないから全く共感できないんです・・・・・・。


あぁ、ほんとに困った。

こんな時、どんな表情カオをすれば良いんだろう?


「あ、あは・・・・・・ぼ、僕も嬉しいです、はい」


───どうやら、僕には笑うこと以外の選択肢は用意されてないようだ。


「それに、なんだ。リレーにも出ているそうじゃないか?」


「え、えぇ。不束ながら僕が出させて頂いて貰ってます」


「───知らないとはいえ、惨いことを」


「え?」


気のせいかな?

・・・・・・いやでも、確実に今惨いことをって聞こえた。


「あぁいや、何でもない。それより、今は練習している最中なのだろう?お友達も待っているようだし、行ってきたまえ」


「え、えぇ。わかりました」


生徒会長だからなのか、情報が早い。まぁ、間違いなく遥達から聞いたんだろうけど。


でも何だろう、こんなに凛々しくて優しそうな生徒会長なのに、僕は緊張感が拭えない。

それはひとえに生徒会長が纏ってる雰囲気がそうさせるのか、それとも・・・・・・まぁ、今は考えても仕方ないか。


「うむ、頑張れ。私も、個人としても生徒会長としても───」


取り敢えず今は、リレーのことについて考えない・・・・・・と?


「んっ」


「へっ?」


生徒会長の───青峰先輩の影が、僕に重なる。


頬にチュッ、と何かが触れた感触が残る。


え、僕いま、なにされた?


お陰で頭で考えていたことが全て、真っ白になった。

そして無意識に、自分の頬を撫でる。


「ん、よし。こんなところかな?それじゃ、頑張りたまえ!」


「ッ~~~~!!!!」


自分でも顔が蒸気してる感覚がある。


あぁ、もう!!ほんっっっとに何してるんだこの生徒会長はっ!!


と、心の中で深く憤おりつつも、華麗にその場でターン。


「が、がんばりまぁ~~~す~~っ!!!!」


長らく尋問?を受けていたから少し体の動きが鈍いけど、僕はそのまま走り出した。


恥ずかしいという気持ち一心で。


「・・・・・・あれ、少し刺激が強すぎたか?」


だからなんだよ。

その後の生徒会長の悩ましげなため息を聞くことが出来なかったのは。




────── 青峰 春陽 (生徒会長) side



「・・・・・・あれ、少し刺激が強すぎたか?」


と、悩ましげなため息一つ。


誰にも聞かれないような声色でそう呟くのは、この高校の生徒会長であり、学園長の娘である青峰 春陽だ。


「あの様子では、次する時も警戒してなかなかさせてくれなさそうだ」


ペロリ、となめまかしく舌を舐めながら扇情的な様子でため息を吐く様子はまさに、この学校の生徒会長というビッグネームに相応しい美しさを誇っていると言えるだろう。


事実、彼女は学園長の娘という親の七光りを持ちながらも、全くそれに頼らず自らの力を以て生徒会長へとのし上がった。


日本でトップクラスの進学校でありながら、数少ない共学であるこの高校の競争率は非常に激しい。


それこそ、頭の回転の速さや仕事の早さ勿論、容姿の美しさや礼儀、スタイルの良さまで求められるのだ。


それを易々とクリアし、同年代の生徒会長候補を薙ぎ倒して生徒会長になったのが彼女───青峰 春陽だ。


「だが流石にある程度抑えておかねばな・・・・・・勝負にすらならんだろう。他の教師陣は知らないとはいえ、惨いことをするな・・・・・・」


呆れ果てた様子で再びため息をつく彼女。


彼女にとって“アレ”は───春峰 湊は恐るべき生き物としか言わざるを得ない。いや、生き物と呼んでいいのかすら定かではない、と彼女は考えていた。


その証拠に、春峰 湊に対して制限を掛けたはずであるのに、アレはまるでものともせずに人では到底出せない速度で走り去っていった。


例え“制限に体液の付着が必要”だとしても、本来なら充分な効能を見せるはずだったのに、たった1人の生き物にそれが破られてしまった。


一言で言えば、ありえないだろうか。


だが同時に湧き出る興味に、彼女は久方ぶりに好奇心を擽られた。


彼女の興味の対象は、男や女、老いや若いも関係なく、等しく分からないと考えてしまう程の謎を持った人物だけである。


故に彼女は思考する。

彼は一体何者なのかと。


「あぁ、気になる・・・・・・気になるぞ春峰 湊───もしや君がではないか、と思ってしまうほどに。あぁ!願うのなら、今すぐにでも君の体を───ふふふ。楽しみだ」

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