可愛さはテロ
「あのさ、みなちーと遥が良いなら良いんだけど・・・・・・この後一緒にリレーのトレーニングしない?───ダメかな?」
と由良が尋ねてきたのは、下校のチャイムが鳴り終わった放課後のことだった。
不安そうに眉毛を歪め、赤色の瞳をうるませ、とても言いずらそうにしながらも勇気を出して言っている様子からわかる通り、ダメもとで頼んでいるんだと思う。
だが僕は問いたい。
可愛い女子にこれまた可愛い仕草で“おねがい”されたら、断れる男子はいるのだろうか?
いや、いない。
「おー!リレーの練習か?」
たまたま近くにいた遥もなんかやる気に満ちてるし、他クラスに負けるのも悔しいしね!
「ふーん、真面目だなぁ由良は・・・・・・うん、よし!なら私は付き合うぞ!」
これでもかと鼻息を荒くして自信満々に答える遥を横目で見ながら、「じゃー僕も参加するよ!」と意気揚々と告げる。
「・・・・・・え、ほんと?いいの?」
と、ちょっと信じられない、という目で僕の顔此方を覗き込む由良。
暫くしてぽっと頬を染めて、僕から顔を逸らした。
・・・・・・え、なにその反応?
これってもしかしてモテ期到来?
なんて舞い上がっているのも束の間。
「前から思ってたけど、やっぱりみなちーって顔整い過ぎてない?・・・・・・見つめてるこっちが恥ずかしくなるくらいさ」
なんだよ!顔のことなのかよ!嬉しいけど今じゃないよ!
でもありがとう嬉しいよ!
なんて考えてしまう僕はきっと、前世なら非モテの男子たちに刺されていたに違いない。
僕の前世は看護師さんや女医さんにモテモテだったしね。
───何故かクラスの女子達にはモテなかっけど。
まぁ、僕の顔面偏差値が高すぎるって言うのはもう、羞恥の事実だしぃ?今更気にしてないって言うかぁ?
「照れんなよ湊。顔赤くなってるぞ」
「はぁ!?て、照れてないし!!」
全く、うちの親友は勘違いも甚だしいね。
今更僕が褒められたくらいで照れると思ってるのかな?───あとで鏡確認しとこう、うん。
照れてないけどね?
「ぷっ、なにそれ。やっぱみなちーってお茶目だね」
「ふふん、でしょ?」
ふっ、やっぱり由良はわかるんだね!
この僕から溢れ出てる魅力?が凄いってことに。
「・・・はぁ、ほんとなんで普段頭いいのに、こうも時々湊はアホになるんだか」
「ふふっ、いいじゃん可愛らしくて!まぁともかく、2人とも練習に付き合ってくれるなら、さくっとやっちゃお?」
「あぁ、そうだな。あんまり遅くなると練習する時間もなくなるしな」
「ふふん、さすがは僕!これでモテ期到来!・・・・・・って、ちょっと待ってよ二人ともぉ!!」
何故か僕を置いて先に行こうとする二人。
なんでさ!?こういうのってもっと待ってくれるもんじゃないの!?という僕のツッコミは、どうやら二人には聞こえないみたいだった。
───
「えっと・・・・・・運動場に来たのはいいけどさ」
「・・・・・・なんでこんなに男子が多いの?」
とボヤく由良と僕。
テレビで使われるよく分かんない表現として、東京ドーム何個分みたいなのがあるけど、僕たちの通ってる高校の運動場はまさにそのレベル。
まぁ、なかなか外に出る機会はなかったから、東京ドームなんてどれくらい広いかわかんないだけどね?
でもそのくらい広いのは確かだと思う。
なのに・・・・・・なんで男子がこんなにいるの?
「パッと見200人近くはいるなぁこりゃ」
「うぇ!?に、にひゃく!?男子の殆どがいるじゃないの!?」
と僕たちが呆然としている中、1人の男子生徒が話しかけて来た。
「おい、お前ら。ここは俺たち男子が使ってんだよ。勝手に入ってくんな」
ボサボサの髪で前世でいうフツメンくらいの子だと思うけど、この世界だとかなりイケメンの部類だと思う。
そんな子がいきなり話しかけてきたら、遥も由良も興奮するに違いないね。
ってことで、僕が会話に応じる。
「あー、そのごめんね?君たちがまさか使ってると思わなくて・・・・・・でも僕達も使いたいからさ、一緒に使わせてくれないかな?」
と、やんわりお願いを告げる。
この世界の男子たちは仲間意識が強いから、僕という“男子”からそう断りを入れれば、きっとこの男子も納得してくれるはず。
なんて、予測は外れた。
「あぁ!?女が調子に乗って・・・・・・んじゃ・・・ない、ぞ?」
話しかけた僕に対して威圧的な言動をしてきた男子だけど、暫くして顔を赤くし始めた。
あれ、僕これさっき見た気がするぞ?
どこかデジャブな光景に思わず笑いが込み上げそうになるけど、そこはクールで大人な僕。
かろうじて笑いを堪えていたんだけど・・・・・・突如、ふにょんとした柔らかい感触が僕の思考を阻害した。
「てめぇ!うちの湊になんて言葉遣いで話しかけてんだ!純粋な湊が汚れるだろうが!」
ひしっと柔らかい腕の胸に挟まれたまま抱きしめられる僕。
おうふ、遥のマジギレモードだ・・・・・・。
「ちょっと君さ?男子かなんか知らないけど、あたしの友達に何しようとしてくれてんの?」
ここで由良からも追撃が入った。
それも二人とも僕を庇うように顔が赤くなってる男子の目の前にたっている。
・・・・・・なんだろう。
少しこの世界の女性を僕は見下していたのかもしれない。
男子と分かれば皆優しくしてくれて、男子なら何もかもが許される・・・・・・みたいな事を考えてたかもしれない。
けど違うんだよね。
きっと二人ともはまだ僕のことを女の子って認識してて、それでもその僕のことを庇って、男子に向かって自分たちにヘイトが向かうようなことを言って───それなのに、何もしない男子がいるだろうか?
───いや、ないね。
「大丈夫だよ、二人とも。後は僕に任せて!」
「んなっ!?何言ってんだ!お前は私の腕の中でじっとしてろ!」
「そうよ!あたし達に任せて!」
2人はかなりごねている様子。
しょうがないので、遥のたわわでプルルンでふわふわな胸から脱出。
「あ、おい!」
「ちょっと、みなちー!?」
と、声を上げて止めようとする2人を静止して、未だ顔が赤くなったままの男子生徒へ向き直る。
「ごめんね、この子達の発言は気にしないでほしい。でもやっぱり分け合うことは大切だし、そこでムキになったら一生解決しないままだ。それに納得できなくて、もし君がこの子達の発言で気に食わないことがあれば僕が謝罪するよ」
そう言って土下座をしようと膝を折る。
何故かって?
一般的にこの世界じゃ並の会社の社長なんかよりも、ただの男性の方が権力が高い。
だからこそ、ある程度は男子生徒のわがままが許されてしまう。
そんな世界で、二人が悪くないとしても男子生徒にあんな言葉を言ったら、良くて高校を退学。
悪くて刑務所直行だと思う。
前世の人にこんなことを言えば、きっと信じられない。けど、この世界は確かに存在して、僕たち男子にとって“都合が良すぎる世界だ”。
なら男である僕が土下座でもして、この一件を見逃してもらう他ない。
しかしそれでも許して貰えるかは分からない。けど、二人にだって家族がいる。
この体育祭で由良のお姉さんに来てもらいたいし、遥だって僕のために退学になんてなって欲しくない。
なら、僕がするしかないよね。
「ほら、この通り・・・・・・」
そう決心して、目の前の男子に謝罪の言葉を続けために、膝を着いて、手を地面につける。
そしてそのまま、土下座をしようと前に屈んだ───その時だ。
ドスッ、ていう鈍い音とともに何かが倒れた音がした。
ん?と思って顔をあげると、そこには謝ろうと思っていた男子生徒が、鼻血を出しながら満足そうな顔で倒れているところだった。
・・・・・・どういうこと?
「お、おい!田中大丈夫か!?」
「しっかりしろ田中ァ!お前には、お前にはァ!野望があるだろうがァ!」
「嘘だろ・・・・・・湊ちゃんに会うまで俺は生きるって言ってた田中が・・・・・・そんな!?」
「田中ァァァァァァァァァ!!!!!!」
・・・・・・えと、なにこれ?
めちゃくちゃ真面目な気持ちで土下座しようと思ってたのに、この
「くっ、お前か!田中を殺ったの・・・・・・は・・・?」
「おい!何して・・・・・・んだ・・・?」
「お前のせいでたな・・・か・・・・・・?」
と思ってたら、いつの間にか男子達が僕の周りを囲んで怒り始めた。
皆顔が真っ赤だ。
てか最初の子、僕は何もしてないんよ!?
「あ、あはは・・・・・・僕は悪い男の子じゃないよ?」
疑われても困るから、やんわりと自分がしてないことを否定する───が、皆顔を赤くしたまま固まっていた。
そして、再び響くドサリという音。
「うっ・・・・・・見えそうで見えな・・・・・・」
「まさか湊ちゃ・・・・・・いる・・・・・・なんて」
さっき見た田中くん?のように鼻血を出しながら倒れる、男子生徒約200人。もちろん運動場は血に染まっていて、地獄絵図だ。
「お、おい?大丈夫か湊?」
「怪我・・・してない?」
そんな僕に恐る恐るというように声を掛ける遥と由良。
相変わらず僕を心配してくれるのは嬉しいけど、周りの心配もしてあげてほしい。
というか、こんな時なんて言えばいいんだろ。
「あ、あはは・・・・・・大丈夫だけどさ?」
傍から見たら、僕が何らかの手段を使って男子生徒を殺しちゃったようにしか見えないと思う。
けど僕は何もしてないし、ただ謝ろうと思ってただけなんだけど。
でもしょうがない。
「僕・・・・・・なんかやっちゃいました?」
前世で暇だったからよく見ていた小説のセリフを吐くくらいしか、僕には出来ないんだから。
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