浴場姿に欲情

「いやぁ、なかなか良い買い物したなぁ!続きめちゃくちゃ気になってた所だし……ふふっ、楽しみかも!」


鼻歌を歌いながら、小躍りでもしたくなるほどにテンションが高い僕は今、自室でこれでもかと寛いでいた。


灰色のTシャツ1枚にゆったりとしたハーフパンツという比較的にラフな格好でベッドの上に居座る僕は、今日購入した《女が少ない世界で私は逆ハーレムを築く》を見ながら、母達の帰りを待っている。


いや、ほんと面白いんだよこの漫画。


男を落とそうと思ったら、それが実は政府から逃げ出した実験体のゴリラで、そのゴリラは日本を落とそうとしてる……なんて、どう考えたらそんな設定が出てくんの?みたいなのが多いんだよね、この作品。


まぁその……え、えっちなね?部分も……というかえっちな部分の割合が7割を占めてるんだけど、でもそのお陰でだいぶえっちな奴の耐性が出来た気がする。

なんなら今日股関節触られた時も、恥ずかしいで済んだしね!


だけど、えっちな奴への耐性が一般的な男子達に比べて少ないのはやっぱり、今後遥と雫も含めたクラスメイトへのドッキリをしていくのに、えっちな奴への耐性がなかったらダメだよねぇ……やるしかないか。


とまぁ、そんなこんなで再び見るのを再開した僕。


10分20分と時間が経過してく中、僕の部屋にはペラペラと紙を捲る音だけが響くだけだ。


そして───がちゃり。


「ただいまぁ!おーい、帰ったわよ湊ー?」


ドアを開ける音とともに、大変聞き覚えのある声が下の玄関から耳に入った。


はいはーい、なんて大声で下にいる“母さん”に向けて言い放つ。


持っていた《女が少ない世界で私は逆ハーレムを築く》をベッドの上に置いて階段を下っていけば、そこにはやはり母さんと───姉のカナエと我が愛しき妹、マナが出迎えた僕を嬉しそうに見つめていた。


……うーん、壮観な景色だなぁ。


この世界の女性達は皆なぜか美少女や美女が殆どだ。いや、ほんとなんでなんだろ?

でもその中でも、やはり僕の家族は別格だと思う。


具体的に言えば、この世界で女優ができるくらい。


そして、そんな世界的に見てトップクラスの家族の血を引いた僕もきっと美少年のはず、なんだけど……まぁ、モテないのはしょうがないよね、うん。


「みんなお帰り」


そんなモテない悲しみを抑えて、笑顔でみんなを出迎えた。


「ふっ、余が戻ったぞ湊」


帰ってきてそうそう、謎のポーズをビシリと決める姉さん。

───うん、姉さんは相変わらずみたいだ。ちょっと安心した。


「おねえちゃ……お兄ちゃんただいま!」


……ん?一瞬言い間違えたよね?

なんて、茶目っ気たっぷりな中学二年生の子がマナちゃん。


両手をこちらに向けて、ハグの体勢に移行しようとしている。


僕はそれを華麗に回避した。

そしてそのまま姉に抱きつく。


「姉さんお帰りー!」


「へぁっ!?……あっ、あっ、み、湊ちょっとまっ、あっ!?」


変な鳴き声をあげ始めた姉さん……えっ、ちょ、大丈夫?


まぁでも、僕は《何故か》昔から幾度となく《姉さんだけ》には裸を見られてるから、今更姉さんもこんなことで気にしないよね。


ちなみに姉さんは、今年大学生になったばかりのJDで、僕と同じように大学の美少女ランキング1位を成し遂げたらしい。


うん、絶対僕姉さんと同類だよねこれ?


「うっ、お兄ちゃん……」


ふんっ!お姉ちゃんなんて言い間違えそうになった妹が抱きつこうとしても、お怒り心頭な僕は抱きつかせないからね……?


……まぁでも流石に可哀想……かな。


ひしっと抱き合っていた姉さんから手を離し、愛に抱きつく。


「愛もお帰りー!」


「ッ!?お兄ちゃーーん!!……ん?何か別の女の臭いが……?」


「ん、なに?どうしたの?」


「……いや、何でもないよお兄ちゃん!」


なんだろう、一瞬可愛い愛の雰囲気が変わって恐ろしいものになった気がするんだけど……まぁ、気のせいか!


「───あらあら、皆堂々と私の前でイチャつくわね」


「あっ……か、母さんお帰りー……」


「完全に忘れられてたわね、悲しいわ私……まぁいいわ、ほら。おいで?」


額をピクピクさせながらも腕を広げて僕の方に向ける母さん。


……いやその、ね?うん。

抱きつきにいきたいけど……母さん何背負ってるのそれ?


へー、ピューマの皮?で、その首にまきつけてるのは?

あーなるほど、キングコブラの亡骸ね。

じゃあその脇に抱えてるのって……あぁ、ヘラジカの角かぁ。ふーん。


「ごめん母さん、パスで」


「ッ!?な、なんでかしら!?」


「いや、流石に抱きつけないよそれ。ていうか何したらそうなるの?もしかしてサバイバルでもしてた?」


だってそれ明らかにこのファンタジーな世界でも浮いてるよ?非日常にも程があるんだけど?


「いえ、普通に昔の人類の生態について研究していただけよ?そこがたまたま南米のアマゾンなだけで……まぁ、流石に危険だから湊は連れて行けなかったけどね?」


あぁ、僕置いていったのって将来の自立のためだけかと思ってたけど、そっちの理由もあるんだね。


にしてもやっぱり三人ともボロボロだ。昔から頑丈なこの三人がこんなに傷だらけになってるのは見たことがないから、それだけアマゾンが大変だったってことだよね。


「よし、じゃあ三人とも疲れてるだろうから、お風呂入っておいで?」


と、僕はそう切り出す。


その瞬間───母さん達の目付きが変わった。


例えるなら、母さんが後ろで背負ってるピューマの様な……そんな目付き。思わず身の危険を感じた。


「「「ゴクリ……」」」


「えっ?えと、どうしたの……?」


後ずさりしながらそう訪ねると、三人ともジリジリとにじり寄ってきた……な、なにされるの僕!?


と軽く身構えた僕だけど、返ってきた返事は酷く理性的なものだった。


「うぬ、そのだな。出来ればだが……先にお風呂に入ってくれぬか?」


と、姉さん。


いやもうお風呂は入ったんだけど……。


「お風呂入ったからシャワーでいい?」


「ッ!?お兄ちゃんもうお風呂入ったの!?じゃ残り湯は!?」


「ん?あーごめん、もう捨てたよ」


なんて僕が何でもないように答えたら、母さんも姉さんも愛も、皆残念そうな顔を浮かべて項垂れている。


何がしたいんだろうこの人達?


少し呆れた眼差しで三人を見つめていると、ふいに母さんが口を開いた。


「なん……ですって?湊、ならもう一度お風呂に入った方がいいわ」


「うん、絶対そっちの方がいいよ」


「余、余もそちらの方がいいと思うぞ……?」


母さんに続くように、愛と姉さんも賛同する。


……もしかして僕臭かった?

それを母さん達は僕を傷付けないように、オブラートに包んで言っている……ってこと!?


いや、絶対そうだもん!


だってもう一度お風呂に入っておいでって言ってた時に、めちゃくちゃ言いにくそうにしてたし!


「わ、わかった!急いでお風呂に入ってくるよ!」


「「「ッ!そ、そう!」」」


僕がそう言うと、どこか嬉しそうに顔を歪める三人。


うっ。やっぱり臭かったのか……こうしちゃいられない、早く入ろう!



───春峰 叶side


「湊ってあんなにチョロかった?」


と、焦ったように風呂場へ直行する湊を見て、私は……じゃない、余はそう思った。

昔から何かと素直な子だけど、最近は特に素直な気がする。


「……何か騙してるみたいで心が痛いよ、お姉ちゃん」


奇遇だな、余もそう思う……めっちゃ心痛い。


こうして私と妹が心臓を抑えて苦しんでいると、母が堂々と胸を張って───「貴女達は心を痛める必要は無いのよ。だって湊は天からニモツ以上のモノを貰った上に、イチモツも貰っているんだから……」───と、清々しい顔で告げた。


何を言い出すかと思えばこの人は……。


「母さんは1回死んだ方がいいと余は思う」


「お母さんももう若くないんだから無理しないでね?」


「ゔぅ!?」


と、私達の総攻撃を食らって母は倒れた。


「よし、お母さんは死んだ……あとは私と勝負だよお姉ちゃん!」


「いいぞ、望む所だ……」


ほう、私に挑もうと言うのか……ふふふ、実は私この手の勝負で殆ど負けたことがないんだ。


今日も勝たせてもらおう……そう。


「「(お兄ちゃん)湊の残り湯をかけて!!」」


「……私生きてるのに。まだギリギリ30歳なのに……」


───


「なっ!?そんな……嘘でしょ?」


「ふっ、すまないな。またまた勝ってしまったようだ」


どうやら今回も、天が余に味方したようだ。


「じゃんけん10回連続勝利なんて……ありえない」


余と愛が互いに構えている傍らで。母さんが驚愕したような眼差しで余を見つめる。


多分今日の余は無敵だ。


排出率が低いアプリのガチャでも神引きしたし、すこぶる運気が極まってる。


「ふふっ、それじゃ!勝っちゃってごめんね?」


と最後に項垂れる愛と母さんを煽ることも忘れない。

さて、向かおうじゃないか……天国ヘヴンへ!


そして余は、風呂場へ突入すべく歩きだ───あっ?


「ん?あ、次姉さん?ごめんごめん待たせてー!」


「……ウブフッ!?」


───私は、この世の天国ヘヴンに到達してしまったのかもしれない。


銀髪から滴り落ちる水滴に、赤く火照った顔。そして……薄く割れた腹筋に程よく筋肉のついた体……な、なんてエロい身体してるんだ私の弟は!!?


あっ、ヤバい鼻血が……。


と、溢れ出る鼻血を抑えつつも、視界は決して湊の身体から目を離さない。


「……あ、もーう!姉さんの───えっち」


ちょっと照れたような顔から放たれたその凶悪なる言葉兵器。これに耐えきれる女は居るのだろうか?いや、ない。


「……ご馳走様で……す……」


その言葉とともに、私は意識を手放した。

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