駄々っ子なのも可愛いと思う年の差百合

川木

駄々っ子なのも可愛いと思う年の差百合

「うー!」

「ねー、やめて。服伸びちゃうから」


 安奈ちゃんが私のセーターをぐいぐい引っ張っている。私はもう靴を履いていると言うのに、往生際が悪い。靴紐をしめて鞄を肩にかけたので、とりあえず振り向いて安奈ちゃんの手の小指を引っ張って右手を離させる。


「うがー! ちみっこは私と服どっちが大事なんだ!」

「ちみっこって言わないで」


 安奈ちゃんは今度は左手もつかってセーターの中に頭を突っ込むようにして引っ張ってきたので、頭を押しながら何度目かわからない文句を言う。


 私の名前は未知なのに、ちょっと背が低いからって安奈ちゃんは不満がある時はすぐにちみっこと呼んでからかってくる。確かに安奈ちゃんは背が高いけど、私だって安奈ちゃんと同い年になったらきっと、いや安奈ちゃんはすぐ朝ごはん抜いたりして体に悪いことしてるから、私の方が大きくなるに違いない。ちみっこなどと呼んで馬鹿にできるのは今だけだからね!


「今日は友達と遊ぶって前から約束してたし、前から言ってたでしょ」

「でも、でも今日は私も休みになったんだぞ! 折角家にまで来てくれたのに、なんで私を一人にするんだよ!」

「ほっといたら朝も昼も夜も食べないからご飯作りにきてあげたんでしょ。映画の時間決まってるから、離してよ」

「ううううぅ」

「あ、ちょ、もう」


 涙声になって私のセーターを両手でひっぱり寝ころんだままかじりつくように顔をよせてくるので、たまらず私はセーターを脱いだ。引っ張られていたセーターはそのまま安奈ちゃんの顔にはりつき、安奈ちゃんはごとんと床に頭をおとした。元々寝転がっていた安奈ちゃんはそのままうごうごとしているので、立ち上がって手が届かないよう一歩離れる。


「未知ぃー!」

「明日はまた来るから。じゃあね。ご飯ちゃんと食べるんだよ」


 また掴まれないうちに、私はそう言って外に出て玄関をしめた。鍵も閉めてしまえば、さすがにいまだパジャマの安奈ちゃんも出てこないだろうけど、とりあえず駆け足にマンションを出た。


 やれやれ。安奈ちゃんはほんと、しょうがないんだから。


 安奈ちゃんは私の家の隣にある、うちのマンションに住んでるお姉さんだ。社会人で大人なのに、最初に会った時から安奈ちゃんはなんだか頼りなくて、なんとかしてあげなきゃってなるほっとけないタイプの人だった。

 今から一年前。安奈ちゃんがゴミ出しの日じゃない日にゴミ捨てをしていたから注意したところ、安奈ちゃんは慌てて謝りながらゴミ袋をもちあげてその勢いでゴミをこぼして、泣きながら謝りつつその場でどうしようとあわあわしていたのが初対面だ。仕方ないから家から新しいごみ袋と使い捨て手袋を持ってきてゴミを片づけてあげたのがきっかけで、それからいつのまにか私は安奈ちゃんのお世話をするようになり、半年前から私たちは恋人になった。

 いやほんと、そんな気は全然なかったんだけど、なんだか安奈ちゃんほんとしょうがないって言うか。私の事大好きだし付き合えなきゃ死んじゃうとか言うし。まあ、しょうがないかなって。


 そんなわけで安奈ちゃんがお休みの日はだいたい一緒に過ごしてるんだけど、土日がいつもお休みじゃないお仕事なので結構不定期なんだよね。

 だから急だけどお休みになったって言うのは嬉しいけど、私にだって友達付き合いがあるのだ。約束をなかったことにはできない。

 これでも、昨日の夜に聞いたから早起きしてちょっとでも会いにきたのに、あんなに駄々こねなくてもいいのに。全く。


 と頭のなかで文句を言いながらも、私は床に転がってぐずぐず言ってた安奈ちゃんを思い出してにやにやしてしまう自分を自覚してた。

 ほんとに、安奈ちゃんは私がいないと駄目なんだから。えへへ。悪い気はしないけどね。


「あ、おはよー! 待ったー?」

「未知ちゃん。おはよー。走らなくてもいいよー」


 待ち合わせ場所に先に待ってた友達と合流する。四人揃ってから私たちは映画を見るため電車に乗った。

 小学五年生になって高学年になったから、子供だけで電車に乗ってもいいよって許可がでたので、初めてみんなで映画を観に行くのだ。楽しみにしてたんだよね!


 私はこの時ばかりは安奈ちゃんのことを忘れて楽しんだ。









「おじゃましまーす……」


 夕方、映画やショッピングを楽しんだあと、一番門限が早い子に合わせて解散したのでまだちょっとだけ余裕があるので、私は安奈ちゃんのお部屋を尋ねることにした。考えたらセーターも置きっぱなしだったし。


「……」

「おわ!? あ、安奈ちゃん!?」


 でもお昼に強引に出ていったので、今日の今日だともしかして拗ねてたり面倒な感じかも、と思いながらそっと玄関のドアを開けたところ、なんと出ていった時と同じ玄関の上り口に安奈ちゃんが私のセーターを頭にかぶったまま転がっていた。


 慌ててドアを閉めて施錠して靴を放り出すように脱いであがり、安奈ちゃんの顔をセーターから出す。


「んあ? あ、み、未知! 私の元に帰ってきてくれたんだな!」

「わっ。お、大げさすぎるよ。と言うかなにやってるの」


 ぱっと目を開けた安奈ちゃんはしゃがんでた私に腕だけで抱き着いて感激したように言うので、頭を撫でながら尋ねると、安奈ちゃんは足を引き寄せて体を起こしてから悲しそうに顔を伏せた。


「ああ、実は未知が出ていったのがショックで……」

「え!? もしかしてずっとここにいたの!? もー! ご飯食べてって言ったでしょ」


 私は安奈ちゃんの手を離させて慌てて立ち上がる。急いで手を洗ってからキッチンに入り冷蔵庫をあける。


「って、あれ? お昼の分ない」


 キッチンシンクを見るとお皿とコップが洗わずに置いてあった。


「……」


 のそのそと気まずそうに安奈ちゃんはキッチンにやってきた。その手には私のセーターをまだ持っている。


「いや、その、お昼は食べたけど。そ、そろそろ帰ってくるかと思って。あ、朝はお昼まで玄関にいたのも本当だからな!」

「はいはい、というか、玄関で寝てたでしょ。折角のお休み、寝るにしてもちゃんとお布団で寝て疲れをとってよ」


 仕方ないからささっとお皿とコップを洗い、私と安奈ちゃんの分、コップにお茶を入れてソファーに運ぶ。安奈ちゃんは私の様子を伺いながらついてきて、私が机にコップを置いたのを見てから抱き着いてきた。


「うぅ……体がいたい。未知、癒してくれ」

「いいけど、マッサージする?」

「うーん。膝枕」

「はいはい」


 仕方ないので膝枕をしてあげる。人間の頭って結構重いんだってこと、安奈ちゃんで知った。安奈ちゃんは大人なのにほんと、しょうがない甘えんぼさんだ。

 でもこの重さも、安奈ちゃんが私を信頼して体を任せてくれているんだって思うとちょっと嬉しい。それに私の膝を撫でて顔を押し付けてくる赤ちゃんみたいなところも、可愛いなって思う。


「……未知、ごめんな。本当は、友達との付き合いくらい、気持ちよく送り出さないと駄目だってわかってるんだ。でも、どうしても、不安と言うか。未知には私の事、いつも考えていてほしくて」

「安奈ちゃん……。そんな心配しなくても、私の恋人は安奈ちゃんだけだよ」


 遊んでる時とか、勉強してる時とか、いつも安奈ちゃんのことを考えてはいられない。さすがにそこはご希望に添えないと思う。でも、いつもふとした時、安奈ちゃんのことを思ってるのは本当。

 授業中、窓の外を見てぼんやりしてた瞬間に今は安奈ちゃんのことを考えてしまったり、ご飯と食べる時でも安奈ちゃん何食べてるかなとか、そんな風に私は安奈ちゃんと恋人になってからそんな風にいつだって安奈ちゃんに頭の中を支配されてる。


「うぅ……ぐす」


 安奈ちゃんは泣き出してしまって私のスカートで涙を拭いてる。もう。汚いなぁ。


「安奈ちゃん、起きて。涙拭くから」

「ん」


 安奈ちゃんの肩をたたいて起こして、ハンカチでちょんちょんと涙をふく。立ち上がってそっと安奈ちゃんの頭を抱きしめて、後頭部をとんとんと撫でる。


「泣き止んだ?」

「……ああ」

「よかった。じゃあ」

「ま、まだ泣き止んでない!」

「ううん、はいはい。じゃあもうちょっとね」

「ん」


 泣き止んだみたいなので一旦話そうとしたら、元気な声で背中に手を回して抱きしめながら否定されたので、仕方なく抱きしめなおす。ぐりぐりと私の胸に顔を押し付ける安奈ちゃん。


「未知ぃ。私の恋人も、未知だけだからな! 一生一緒だからな!」

「はいはい。わかってるよ。もー、ほんと、安奈ちゃんは心配しすぎだよ。まあ

? 嫉妬されて? 悪い気はしないけど?」

「う。そうは言うけどな。私だって、自分がその、駄目なやつだって自覚くらいあるし。未知だって、本当はもっと似合う、ふさわしい人がいくらでもいるというか、そう言うのに気づくんじゃないかとか、そりゃ、思うだろ」

「似合うとかふさわしいとか、そう言うので好きになる人って選べないでしょ?」


 私と安奈ちゃんは一回り以上年が離れている。だから一緒にデートしていてもお似合いなんて絶対見てもらえないのわかってるし、私の家族にも内緒にしなきゃってわかってる。

 でもそれは安奈ちゃんも最初からわかってたはずだ。その上で私を好きになって告白してくれた。私はそんな安奈ちゃんだから好きになったんだ。


「それはそうだけど……未知は他を選べるけど、私は選べないと言うか」

「うーん」


 自己評価が低いなぁ。私だって、もっとちゃんと大人の方がやっぱりいいとか、そんな風に安奈ちゃんが気が変わったりしないかなってたまーに心配になる時だってあるのだ。これで安奈ちゃん、ちゃんとおっきい会社につとめてるし。スーツ着てる姿はちゃんとした大人の女性って感じで、結構かっこいいし。

 でも安奈ちゃんは私の前では全くとりつくろわないほど私にべったりだからそんなには心配してない。私だって、こんなに甘やかしてよしよしするのは安奈ちゃんだけなんだけど、いまいち安奈ちゃんは私を信用してくれないんだよね。

 もっと、私にとって安奈ちゃんが特別だってどうやったらわかってくれるんだろう。どうしたら私には安奈ちゃんしかいないし、他の人なんて見えないって自信をもってくれるんだろう。


「安奈ちゃん、もういいでしょ? 座るから離れて?」

「……うん。ん? え?」


 ぽんぽんと頭を叩いて離れさせ、ソファに座ってる安奈ちゃんの肩を掴んで、その膝の上に向かい合う形で座る。

 膝に乗ってもまだ私は安奈ちゃんより頭の位置が低い。それだけの年の差があるんだ。安奈ちゃんは大きい。大人だ。だからこそ、私だって考える。安奈ちゃんを引き留める為に何が必要か。


 すぐ正面、鼻がくっついちゃいそうな距離で安奈ちゃんを見つめる。安奈ちゃんは照れたみたいに真っ赤になって目を泳がせて、ちょっと顔をそらしてしまう。私みたいな小学生を本気で好きで意識してくれてるんだって、私にでもわかる。ああ、可愛い。


「……ちみっこ、ちょっと近い」

「さっきまで抱きしめられてたのに、おかしいでしょ。ね、安奈ちゃん顔そらさないで」


 両手でそっと安奈ちゃんの顔を挟んで、私の方を向かせる。安奈ちゃんはそれに慌てたように肩をびくつかせて両手をあげて、あわあわしながら手をおろした。


「ち、ちみっこ、照れるから」

「ちみっこって呼ばないで。そんな風に呼んで誤魔化さないで」

「……誤魔化してるとか、そう言うんじゃ……」


 その言葉がもう、誤魔化しだってわかってる。安奈ちゃんが私をちみっこって呼ぶのは文句を言う時ばかり。いつもそう言う風にふざけて悪態をつくことで、自分の気持ちを誤魔化してる。

 朝なら、本当に本気で行くなって私を拘束したいのを誤魔化してた。それはきっと、優しさからくる誤魔化しだ。そして今は、いい雰囲気になりそうなのを誤魔化してる。それはもきっと、安奈ちゃんにしてみれば優しさなんだろう。でも、私はそう思わない。


「……安奈ちゃん、目、つぶってよ」

「だ、だだ、駄目っ、駄目だから。未知はもっと、自分を大事にしないと駄目!」


 顔をよせてそうお願いする私に、安奈ちゃんは限界まで顎をあげてそらして私の頭に手をそえて距離をとろうとする。


「意気地なし。恋人と、キスするのは、別に、大事にしてないことにならないでしょ。むしろ、自然なことでしょ」

「そう言うのは大人になってから……」


 キスって口に出して言うのはちょっと照れ臭かったけど、安奈ちゃんが真っ赤なまま、だけど困ったようにそんなことを言うから、いらっとしてしまう。

 大人になってからなんて、まっとうな大人みたいなことを言う。安奈ちゃんから私に告白したくせに。大人とか子供じゃなくて、私が好きって言ったくせに。だから私も、安奈ちゃんが好きなのに。


 だから私は安奈ちゃんの顔から手を離して安奈ちゃんの手をとった。それに少し油断して力をゆるめた安奈ちゃんに、その手を自分の胸にあててちょっとだけ顔を寄せる。今度はキスするためじゃなくて、私の気持ちが伝わるように。


「キスだけじゃないよ。もっと、安奈ちゃんがしたいこと、全部、していい、よ?」

「え、え、え?」


 安奈ちゃんは驚いた顔をして、それこそ無垢な小学生みたいだ。まるで立場が逆だ。でももちろん、そんなわけない。

 安奈ちゃんは私に告白したし、私のことちゃんと恋人として、女の子として、えっちな目で見てる。そのくらい、小学生の私だってわかる。

 私を抱き締めるとき、背中をなぞるその手付き。膝枕の時だって太ももも撫でてた。さっき安奈ちゃんを抱き締めた時も、必要以上に私の胸にぎゅっと顔を押し付けてたの、ちゃんとわかってたよ。


 わかってて、安奈ちゃんだから全部許してるんだよ?

 どうしてそれがわからないのかな。私が、何にもわからない子供だと思ってる。私がそんな可愛い子供じゃなくなったのは、安奈ちゃんのせいなのに。


「安奈ちゃんと私は、恋人なんだよ? もっと、恋人しかできない、色んなこと、しよ? そしたら、安奈ちゃんだって、その、私が離れるとか、そう言う不安、感じなくて済むでしょ?」

「そ、そそそ、そう言う為にするとか、そう言うの駄目だと思う!」


 安奈ちゃんはそう高い声で否定する。その体はこわばっていて、だけど私の胸にあててる安奈ちゃんの手はぴくりとも動かず、触れることはないけど、離れることもない。


「私がしたいって言っても?」

「だ、だ、駄目。未知が、大人になるまで、駄目」


 こんなに簡単そうなのに。安奈ちゃんは押せばすぐに落ちそうなくらい弱いのに。普段からダメダメで、私にバレないと思って私に触れてるくせに。こうやって私から言ったらうんって言わないなんて。強情だなぁ。


「なんで?」

「……未知と、一生一緒がいいから」


 私の問いかけに、安奈ちゃんは私をまっすぐに見てそう言ってくれた。そのシンプルで真っ直ぐな言葉。何回も言われている言葉なのに胸がドキドキして、ああ、ほんとに、大好き。私も、安奈ちゃんと一生一緒がいい。

 だからこそ、もう離れられないように、絶対の約束がほしい。勘違いや気の迷いじゃない、間違いない恋人しかしないことがしたい。


「一生一緒にいてくれるなら、いいじゃん。安奈ちゃんがロリコンで、子供の私をもてあそんで捨てるなら許せないよ? でもそうじゃなくて責任取ってくれるなら、私はいいよ?」

「よくない! ……今、未知がいいって言っても、よくないんだ。もしそうしてしまって、いつか未知が大人になって、やっぱり最低だって私を嫌いになる時がくるかもしれないだろ? それだけは嫌なんだ。私は、未知がいないと生きられない。死んでしまう。だから、お願いだからっ、ずっと、側にいてくれ!」


 あーあ、もう、あぁ、ほんと、めちゃくちゃだよ。だって私からこれだけ言ってるんだよ? なのに大人になったら気が変わって責めると思ってるの? もし本当にそうしたとしたら、それはそういうことにしてるだけで、きっと全然違う理由で安奈ちゃんのこと嫌いになってるだけだよ。

 そして、だから、そんな日は絶対に来ないのに。


 未来の事はわからない。絶対なんてない。だからこそ不安になる気持ち、わかるよ。でももし安奈ちゃんの事嫌いになったとして、私は自分から言いだしたことでそんな風に逆切れするみたいに責めるなんて、そんな恥知らずなことはしない。

 もし嫌いになったとして、ちゃんと素直にそう伝えて別れるよ。だから、私とキスとかするしないが別れることと繋がるなんてことはないんだ。


 私の中ではそうはっきりと、ちゃんと理論がつながって、ちゃんとした理屈でそう説明できる。


「……うん」


 でも言葉にならなかった。きっと安奈ちゃんにはどんなに言葉をつくしても、ちょっとお馬鹿で頑固な安奈ちゃんはあれこれ意見をとっかえひっかえしては、自分の考えを曲げずに貫き通そうとするんだろう。そんな諦めもあった。

 でもそれ以上に、私からしたら意味がわからない理屈を言いながらも必死になって私を抱きしめた安奈ちゃんの力強さに、その思いの強さを表す熱に、もう何も言えなくなってしまった。


 だって、安奈ちゃんが震えてるから。本気で私がいないと死んじゃうって心から信じてる風に言うから。その気持ちがいたいほど伝わるから。


「わかったよ。でも、大人になったらしてね?」

「うっ……うん」


 戸惑うように身じろぎして、それでもぎゅっと私を抱きしめる力をゆるめない安奈ちゃん。


 恋人になった時もそうだった。まだ恋人なんて考えてもなかった私に、安奈ちゃんは同じように必死に、死んじゃうからって訴えてきた。理屈とかじゃなくて、ただただ自分の心をぶつけてきた。それに私は負けたのだ。

 だから安奈ちゃんに言葉を重ねて説得したりとか、結局意味がないのだ。安奈ちゃんがしないと決めたなら、私は安奈ちゃんの気持ちをひっくり返せない。


 私は安奈ちゃんの、甘えん坊で片付けも下手くそで時間にルーズでいい加減で、感情的ですぐ怒って、その癖、気が弱くてすぐ泣いちゃう、そんなダメダメな安奈ちゃんの、でも自分の思いを譲らないねばり強さに根負けして惚れてしまったのだから。


 ああ、早く大人になりたいなぁ。早く大人になって、安奈ちゃんの全部を、私のものにしたいなぁ。

 私はそう思いながら、安奈ちゃんのことをぎゅっと抱きしめ返した。

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