貴方に題をつけていただきたい。

谷崎 めろる

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これからお話するものは他人にとっては因果応報と言われるようなものではありますが、読者の皆様はどうか私に哀れみをくださいますようここに頭をさげてお願い申し上げます。

「恥の多い生涯をおくってきました」だなんて有名になったものだけが言えるセリフです。



 私は天才の人間が嫌いです。自分が一生懸命書いた作品でさへ才能という生まれつきのもので押し潰してきます。

彼らは努力なぞしないのです。彼らは私たちから手が届かない程上から「天才なぞ居ない、才能なんぞない。」そういうのです。彼らの言う言葉は一つ一つが残酷で、ついこの間○○という天才が、しゃがれ声で「君も天才だろう」アハハハハハと薄汚く汚れた音を奏でながらそんなことを言いました。



 そんなことを言うなんてよっぽどの阿呆か、ただの世辞か、まあ普通に後者でしょう。細かいことは覚えておりませんが東京帝国大学に通っているとき○○という憧れの先生がおりましたので血が滲むほど努力をしてそこに入学した訳ですが、やはり人間というものは残酷で○○という先生は私の書いた文を見るや否や私が命をかけて書いた作品を地面に叩きつけ「才能のない貧乏人のものなんてみたくもない。」と私の原稿をわざと破くように踏みながら部屋から出ていきました。

 自分自身でいうのもなんですが衣食住には困らぬほどの金をもった家に生まれたつもりです。貧乏人ではないし才能がない人間でもない。

この時の私はただの阿呆でそんなことを思っては自分を鎮めていました。

今はそんなことは思っておりません。○○という先生の仰る通りで、自分は才能のないただの阿呆なのです。



 東京帝国大学に入学して1年後、私が今まで見たこともないほど蠱惑的で気持ちが悪いほど整った顔をもった美青年が現れました。

周りの人間がハっとしてしまうほどの美貌をもっている彼は当たり前のことに、注目の的となりました。彼と話した人みな呪われたように「かっこいい」「才能があるな」などと同じことしか言いませんでした。狂気的というより、狂信的な方が表現的には当てはまるでありましょう。

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