第一話 バイバイ……そして

 あのお葬式から一週間が経った…僕はリュックに必要な物を詰めて最後に大切なグローブを抱えて部屋を出る。




「……………………」




 すっかり空っぽになっちゃったな…リビングもお父さんとお母さんの部屋も、そして僕の部屋…


 家を出る前に何も置いてない空っぽの部屋たちをまわってみた。




「これは………」




 ふと部屋の柱についた傷が目についた。この傷は僕が誕生日になったらどれくらい大きくなったか傷をつけて残していたもの。あの日だってほんとはここで………




「……………………」




 あの日から、僕の心にぽっかりと何かが消えたようだ。この気持ちが何かもわからないし考えてしまうと気持ちが悪くなる。だから何も考えずにいた方が楽だ、僕はそのまま玄関を出て




「バイバイ………」




「行ってきます」は言わないもうこの家ともお別れだから、玄関を出てみるとクラクションが鳴る。


 そこには、小さなバスみたいな車があってその運転席から一人の大人がでてきた。これからお世話になる美穂さん。




「こんにちは。ソラ君準備ができた?」




「………はい」




 力のない返事を返して、車に乗り込む。




「シートベルトはしっかりね。あっ!トイレは大丈夫かな?」




「大丈夫です」




「だいぶ、遠くまで行くから何かあったら教えてね」




 そうして,美穂さんは車を走らせて行く。






 ******






 車に乗って30分くらいが経った、二人に会話はなく沈黙が流れる。


 ふと、ソラは隣で運転する人………山元美穂さんに視線をを向けた。




「……………………」




 お葬式の時、親戚のおじさんやおばさんが僕について話し合いをしていた。でも誰も僕を邪魔者扱いで僕がいらない子だと耳に伝わってくる。その時だって何も感じなかったし、でもうるさかったから耳を塞ごうとしたら、急に誰かの怒鳴り声が響く。ふと後ろを向いてみたら、おじさんおばさん達に怒ってる人がいて、それが美穂さんだった。そんな美穂さんはみんなを説得した後に、僕の方にやってきて一緒に暮らさないかと提案した。少し悩んだ、知らない人と一緒に暮らせるのかと、でも僕が知ってる人達は僕と一緒には暮らしたくないようだったからただ一言「はい」とだけ言った。


 その後は、美穂さんが僕の新生活の準備をしてくれる間、僕の家から比較的に近い親戚の家で預かることになって、今日久しぶりに僕の家に帰ってきたら中はほぼ空っぽになってしまっていた。どうやら親戚が売ったか捨ててしまったらしい………まぁ今になったらそれもどうでもいいけど、ただ、いま一つ気になるのは………




「ん?どうしたの?」




 美穂さんが僕の視線に気づいたらしい




「あっ……なんでもないです」




「何か気になることでもあるようだけど?」




 向けてた視線が長かったのか、どうやらバレてたらしい


 思い切って聞いてみることにした。




「あの…美穂さんはなんで僕を?」




 初対面の僕を引き取ってくれたのだろう?




「あぁ~………やっぱりだけど覚えてないか」




 美穂さんが少し残念そうにしながら




「実はね、龍一と愛里………あなたのお父さんとお母さんはわたしの親友でね、一回会ったことがあるんだよ?まぁソラ君はまだ赤ちゃんだったから覚えてないのは当然か」




「お父さんとお母さんの?」




「うん、でもわたしもいろいろあって長い間、会えてなかったんだ。…ごめんね。もっと頻繁に会えていたらよかったのに…」




「……………………」




 僕は、何も言わない。ただなんとなくわかった事はこの人も僕じゃなくて死んだお父さんとお母さんの為に僕を引き受けたんだと理解・・した。




「………まだ、到着まではいっぱい時間がかかっちゃうから少し寝ててもいいよ」




「………はい」




 少し気まずい雰囲気が車内に漂い、僕はグローブを強く抱きしめたまま眠りについた。






 ******






「・・・・らくん・・・そらくん・・」




 誰かが僕を呼ぶ声が聞こえ、ふと目を開けてみる。




「ソラ君、あともう少しで到着するよ」




 美穂さんが僕を起こし、ふと窓に目を向ける。


 昼に出発してもう何時間が過ぎたのだろう。すっかり日は暮れ始め辺りは暗くなっている。周りはもう僕が知らない風景だ。ふと車がとある建物に停車して




「到着したよ」




 シートベルトを外した美穂さんが車から出る。僕も遅れてシートベルトを外しついていくことに、そこには古めで大きな家が一つそして看板には………




「『すずらんの家』?」




「そう!ソラ君はここでみんなと幸せになってもらいます!」

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