ユニークスキル「飼育係」で、ぼくが魔王と呼ばれるようになるまで

大隅 スミヲ

プロローグ ぼくは魔王と呼ばれている

 ぼくは魔王と呼ばれている。

 別に、誰かにそう呼んでくれとお願いをしたわけではない。

 それは周りが勝手に呼び出したことだった。


 魔王と呼ばれる前は、奴隷と呼ばれていた。

 奴隷剣闘士グラディエーターのハル。それがぼくの二番目の名前。

 最初の名前、本当の名前は、春樹はるき。両親が共に大ファンだった作家から名前を頂戴したらしいが、ぼくはその人の本を読んだことは無かった。


 いまは誰も、ぼくのことを春樹と呼んではくれない。

 誰もがぼくをと呼ぶのだ。

 ぼくは魔王と呼ばれることがあまり好きではなかった。

 と、誰かがぼくのことを呼ぶが、ぼくはこの名前で呼ばれるのが好きではないため、自然と不機嫌な表情になってしまう。

 すると呼んだ相手は恐れおののき「申し訳ございません」と、ひれ伏すのだ。それが尚更、ぼくの不機嫌さに拍車を掛けてしまう。


 魔王様は、恐ろしいお方だ。

 気安く魔王様に声を掛ける出ない。

 魔王様にとって、我々は虫けら同然に過ぎないのだ。


 色々なところで変な噂が流れる。

 それがぼくの耳に入ると、さらにぼくの機嫌は悪くなる。


 魔王様は、恐ろしいお方だ。

 皆が口々に言う。


 別にぼくは怖い人じゃない。むしろ優しいぐらいだ。小学生の頃は飼育係だったし。

 そんな優しいぼくが、どうして魔王と呼ばれるようになったのか。

 それは半年前に、この世界にぼくがやってきたところから話す必要があるだろう――――。

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