聖なる石を探す旅 -冒険の始まり-

あきこ

第1話 私達、死んでしまったの!?

「もう!…返せよ!」

「いいじゃん、ちょっと見せてよ!」


 後部座席で由香ゆか亮介りょうすけは双眼鏡を奪い合っていた。

 由香が中1、亮介は小5。年齢が近く仲が良いが喧嘩けんか日常茶飯事にちじょうさはんじだ。


「いい加減にしなさい、車に酔うわよ?」

 助手席に座る母親の安江やすえが呆れながらさとした。


 市川いちかわ家は久しぶりの家族旅行中だ。父親である信夫のぶおの運転する車で、山道を走っている最中だった。


 父の信夫は医者、母は刑事で、なかなか休暇を合わせることは難しい。だから家族4人での旅行は本当に久しぶりだ。


「景色が良いね、止めて写真撮ろうか」


 ハンドルを握る信夫がそう言い、小さな展望スペースの駐車場に止めた。それぞれ外に出る準備をして、ドアを開ける。


「すごく綺麗ね!」

 外に出てすぐ、安江が声を上げた。


 視界一面に美しい山々が広がっていた。

 プカプカ浮かぶ真っ白な雲と青い空。そして太陽の光を浴びた明るいグリーンの色合いが最高の景色を作り上げている。


 父と母が大きく空気を吸い込んで吐く。

 それを真似て姉弟も深呼吸した。


 信夫はカメラで写真を撮り、安江と由香はスマホで写真を撮る。亮介は、首にかけている双眼鏡を覗いていた。


「並んで、写真を撮るよ」

 信夫がみんなの方を見て言うと、3人はきれいな景色をバックにポーズをとり、信夫は何回かシャッターを押した。


「パパも一緒に撮ろう!」由香が信夫を手招きして呼び、由香が腕を目一杯伸ばして、全員がスマホの写真に入るように確認する。

「パパ、ママ、もっとこっちに寄って!」

「はいはい。これでどう」

「うん、大丈夫。じゃ、撮るよ」

 4人は楽しそうな笑顔で写真におさまった。


「じゃあ、そろそろ、行こうか」

 信夫の声で、皆が車の方に戻ろうと動いた。

 その時──、グラグラッと地面が揺れ始めた。


「きゃあ!」

「じ、地震!?」


 立っていられない程の揺れに、由香と安江は思わず悲鳴をあげた。信夫は傍に居た安江の体を引き寄せ、由香と亮介はお互いを支えるようにしがみつく。


 パラパラと道路に上から小さな石が落ちてきた。

「危ない!石に気を付けて」

 信夫がそう言ったが、石どころではなかった。

 地滑りが起き、土が道路に流れて来ている。


「きゃああ!パパ!ママ!」

 由香は亮介にしがみついた状態で叫ぶ。信夫と安江はお互いを掴んだまま、子供たちの方に行こうとして手を伸ばし、そして叫ぶ。


「由香!亮介!」

「パパ!ママ!」


 あっという間だった。

 轟音ごうおんと共に大量の土の塊が流れてきて、由香と涼介はお互いにしがみついたまま、土と一緒にそこから流された。



     ◇


 祭壇さいだんほのおが黒い空に向かって高く伸び、揺れていた。


 その炎を悲しそうな表情をした人々が眺めている。


「アーロン様、聖女サラ様がお亡くなり、これからどうすれよいのでしょう?」


 レイアは、涙を滲ませた大きな瞳で、この国の皇太子アーロンを見つめ、不安そうに言った。

 風がレイアの長いストレートの銀髪をふんわりと揺らす。


「レイア…これからは君が新しい聖女だ。君が我々を導くんだよ」

 アーロンは優しい口調でレイアに言った。

「でも、私など、聖女サラ様には遠く及びません、一体どうすれば!」

「大丈夫だ、聖女レイア、君はサラが最も信頼していた弟子じゃないか」

 アーロンはレイアを慰めるように言う。


「そうですよ、聖女レイア。どうか自信を持って下さい」

 アーロンに続き、第二王子のサランもレイアを励ます。しかしレイアの不安は消えない。


「私がサラ様のように出来るとは……」

 そこまで言い、レイアはバッと燃える祭壇の方を向いた。アーロン達もつられてそちらを向く。

 しかし、そこには特に何もなかった。


「…どうしたんです、聖女レイア?」

「な、何かが来ます」

 レイアが見つめるのは燃える祭壇の手前の空間だ。


 突然、その空間が金粉をふったようにキラキラと輝き始めた。そして光が徐々に強まり、まるで爆発したような強い光をはなつ。

 アーロン達は光の強さに耐えられず、腕で光をさえぎった。


 その後、光は徐々に小さくなり、キラキラと分散し、やがて完全に消えて元の暗さに戻った。


 そして光が消えたその場所には、見たことのない服を着た少年と少女が倒れていた。



     ◇


「ん……」 体が痛い

 由香は目を開けずに寝返りをしようとして、腕に鈍い痛みを感じた。


「……ちゃん!ねえちゃん!」


 由香の耳にはっきりと弟の亮介の声が聞こえ、由香はパッと目を開ける。

「よかった、ねぇちゃん」

 亮介の少し安心したような声が聞こえ、由香は目が覚めて上半身を起こした。

 亮介はベッドの上にべたんと座って由香の方を心配そうに見ている。


「ここは?」

 由香は状況がわからず、キョロキョロしながら亮介に聞く。

「わからない」

 亮介が不安そうに答える。


「病院ではなさそうね。ログハウスみたいだけど…」

 丸太で組み上げた作りの部屋を見て由香が言う。

「とりあえず、助かったみたいだけど…」

 そこまで言って、由香ははっとし「パパとママは!?」と叫んだ。

「わからない、俺もさっき起きたばかりだし」


 コンコンとドアをノックする音が聞こえ、二人はビクンっとする。

「入るよ」と言う声がして、ドアが開けられた。


「やっぱり気が付いてたね。声が聞こえたから」

 アーロンとサラン、レイアに続いて何人かが部屋に入って来た。


 彼等を見て、由香と亮介は言葉もなくぽかんとした顔になった。


 皆、日本人ではないのが一目でわかるだけでなく、彼等はゲームや漫画の中で見る冒険者のような服を着ている。その上、全員がとても美しい容姿だったからだ。

 

 アーロンがベットの脇に置いている椅子に座り、由香と亮介と同じ目線になってから、二人の目を見て話し出した。

「僕は、アーロン・スベレスター。この国の第一王子で、皇太子だ。こっちは第二王子のサラン、そしてこの女性は、聖女レイアだ。…君たちの名前も教えてくれるかな?」


 由香と亮介は顔を見合わせた。

「私達、死んでしまったのかな?」

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