雲野幸三
雲野幸三は退屈な隠居生活を送っていた。ヤクザからの依頼はめっぽう減り事実上の引退となった。
理由は単純だった。中条組の組長である中条武が引退し、息子の修二が組長となったからだった。修二は武と違い学があった。
それなりの知恵も兼ね備えていたので厄介事もめっぽう減った。
自然と雲野とのつながりも解消されていくようになる。それは良かった。蓄えは十分すぎるほどあったし、いつまでもやくざの世界にいればいずれ誰かに消されてしまう。武が引退したのがちょうどいい潮時だったのだろう。
しかし、彼が最も恐れていることが同時に起こる。それは退屈な日々だった。妻は息子を生んだ時他界し、息子は家を出た。もちろん大人になったのだから当然だ。けれど、そうなると家にいるのは雲野幸三一人だけとなる。
仕事があるときは生き生きとしていたのだが、仕事をしなくなると目に見えて老化が進んだ。まだ六十代なのにボケが入り始めているような気がする。
昔は他人を圧倒するほどの回転数だった脳も今や十人並みか、それ以下となっている。
雲野は自分が徐々に死へ近づいていくのが怖くて仕方がなかった。
新しい趣味を見つけようと、盆栽を始めた頃だ。じじい臭い趣味であることはわかっていても何かせずにはいられなかった。
「雲野さん郵便ですよ」
庭に出ていると郵便局の若い男が元気に声をかけてくれる。自然と口元が緩む。
「おおそうか。ありがとうな」
雲野が礼を言うと男はきっちりとお辞儀をしてバイクで去る。
一通の封筒が届いたようだ。中身はなんだろうか。
「私はあなたの秘密を知っている者です。それと同時に、あなたの知りたい秘密も知っております……か。おもろいやないか。わしにゲームを挑むっちゅうなら受けて立ったる」
雲野は満面の笑みを浮かべた。彼の欲している刺激がここに約束されたような気がした。
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