第5話

そこからの流れはスムーズにいった。零士の両親は既に他界しており食事の席では雲野と祖母、中条武、修二、そして俺が席に着いた。修二と俺はすぐに仲良くなっていた。同じヒーローが好きだったこともありすぐに盛り上がった。

「仲ええな」

「優馬君、修二一緒に暮らしたいか?」

「うん!」

俺たちは同時に頷いた。

「だめです!」

祖母が珍しく声をあげた。

「孫に危険な思いをさせたくありません」

すると、中条はにこりと笑う。

「安心してください。わしの家から遠いところに新しく家を建てるつもりです。息子と優馬君の安全を思ってのこと。もちろんあなたも住める」

「なぜそこまでして下さるの?」

祖母の疑問はもっともだった。いくら父を守れなかったとはいえ、家を建てるというのはいささかやりすぎのように思える。

「ここにいる雲野は組お抱えの探偵でしてねあなたのことも調べておいたんです。調べてみると、あなたは女手ひとつで愛さんを育てられている。夫を早くに無くしてしまったらしい。ですが、さすがのあなたにも二人目は無理だ。我々ならお孫さんを助けられる」

雲野は「そして」と中条の言葉を補足する。

「中条組幹部の葬式はよう、報道されとる。このままやと悪質な記者が家を特定しちまう。調べたところ零士さん宅は既に記者に出待ちされているそうや。あなたの家だって特定されるのは時間の問題や。息子さんを危険から遠ざけたいなら、ここは新居に引っ越してみてほしい」

 損得で言えば明らかに得だった。中条は衣食住、それに教育をすべて揃えると言っているのだ。俺自身修二と一緒に暮らしたかったからとても乗り気だった。

「わかりました。必ず、孫を危険から遠ざけてください。絶対ですよ」

「承知した。お孫さんには傷一つつけやしない」

 中条は俺から見ても信頼のおける人物だった。忠義に厚い昔気質の人間で顔や性格は違えど、どこか父を思わせるような人物だった。

 さて葬儀をする前、俺と祖母は父の遺言を確認した。それによると、財産はすべて俺の手元に来るらしい。ただし、その使い道については祖母が監督するようだ。

 遺言を読んでいると今まで知らなかった財産が次々に出てくる。その中でも一番俺が気になったのは刀が仕込まれた杖だった。祖母はその刀を父と一緒に埋葬しようと思っていたらしい。

 俺はその刀をある人物に渡すことにした。

「ねえねえ、雲野さん。この刀ってどれくらいすごいの?」

そういって父の杖から刀を引き抜く。優馬ふくめ周りに人間は全員息をのんだ。

「こりゃすごいな」

中条武がつぶやく。

「かっこいい!」

中条修二は目を輝かせながら言った。一方の雲野は刀にほれ込んでしまったかのような目をしていた。雲野が黙っているのを見て修二が肘でつつく。

「おお、すまん。少し貸してもらうで」

そういって雲野は刀を手に取る。いつの間にか雲野の手には白い手袋がしてあった。まるで刑事のようだ。

「よう手入れされとる。さすが真田さんや。切れ味も、えっらいきれいな刀やな。切れ味は最高や。こんな刀欲しいもんや」

「あげる」

「何を言っているの?」

祖母が金切り声をあげる。耳をふさぎたくなるような声だ。

「だっておじさん言ってたでしょ? いい刀だって。このまま埋めるなんてもったいないよ。でも僕が持つわけにもいかないし。それならおじさんんに挙げた方がいいと思うんだ」

すると、雲野は目に涙を浮かべながら答えた。

「ええこと言ってくれるな坊主。この刀があったらわしはあと四十年生きられそうや」

「あなたなら九十歳くらいまで余裕でしょうに」

 中条が軽口をたたく。雲野は「へ?」ととぼけて見せる。

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