第4話

 俺はそこで初めて雲野が何をしようとしていたのか分かった。五歳の俺には雲野が犯人をどうするかは想像がついていなかった。田島巡査は首をはねられた。今思えばやくざらしいけじめのつけ方だと思う。

祖母は安堵しきった顔をしていた。後でその時のことを聞いてみると、父に敵対する組織の抗争かと思っていたらしい。無理はない。強盗に見せかけて組員を殺すなど日常茶飯事だからだ。しかし、犯人は多額の借金を抱えていたことが判明し金銭目的の強盗と判明した。

田島は容疑者死亡として不起訴処分になった。問答無用で首を切り落とされているのだから俺としてもこれ以上の罰は望んでいなかった。

翌日には葬儀が行われた。幼かった俺にもわかるくらい上等なスーツを着せられた。祖母は大掛かりな葬儀を望んでいなかった。しかし、中条組がそれを許さなかった。零士を慕う部下たちが費用を捻出したのだという。

俺が慣れないネクタイに戸惑っていると大勢の警護と、部下の列の中からこめかみに傷を負った男がやってきた。身長は父と同じくらいだが顔からは恐ろしいオーラが漂っていた。彼の名前は中条武。言わずと知れた中条組組長だ。彼は俺の近くに来たかと思うとすぐさま頭を下げた。

「すまなかった。君の両親を守ってやれなかったのはわしの落ち度じゃ」

部下の何人かがざわめく。組長が頭を下げているところを見たことがなかったのかもしれない。

 武が頭を下げていると後ろから同い年の男の子が歩いてきた。彼の名前は中条修二。俺の親友だ。当時はまだ面識はなかったが武と違い優しそうな顔が気に入っていた。

「僕は中条修二。君が真田優馬君か。よろしく」

「うん。よろしく」

俺は差し出された手を握る。

「ええこっちゃ、ええこっちゃ。仲良うしいや」

その言葉で俺はとっさに修二の後ろを見た。するとそこには雲野が立っていた。

「雲野さん!」

俺は駆け寄って雲野を抱きしめた。雲野もそれにこたえてくれた。

「おお、覚えとってくれたか。優馬君。昨日ぶりやな」

「来てくれたんだ」

「そりゃ来るやろ。お父さんには世話になったからな」

「雲野さん、来てくれたんですね」

「当たり前やないですか。優馬君とも約束しましたしね」

そういって雲野は俺にウインクした。俺は親指を立ててそれにこたえる。

 すると、中条武は祖母と俺を後にして組の仲間と雲野で話始めた。

「それにしても早いな。まさか二日とは」

「そうでっせ。さすが雲野さんだ」

「そない持ち上げてもなんも出ませんで」

「今回は君が直々にやったのか」

「けじめですから。組長も言っとったやないですか。けじめは自分でつけろと」

「さすがだな。雲野」

「昔から刀には自信がありましてな。それに真田はんにも鍛えてもろた」

「そうか。今日、全知君は?」

「ああ、あいつやったら家におります。どうも今日は体調が悪いみたいで、すんまへん」

「いや、いいさ。零士も知らない子供が来ても首をかしげるだけでしょう」

「それにしても、愛さんまで。わしらは覚悟の上ですが愛さんには申し訳ないですな」

「わしは探偵ですよ。組と一緒にせんといて下さい」

「同じようなもの」

「確かにあくどい商売ってのは同じですけどね」

雲野につられて組員が笑う。葬式で笑うのもどうかと思う。しかし、父の死で組員の多くが暗い顔をしていたり、路頭に迷った顔をしていたりしていた。

「お前ら! シャッキっとせい! 泣くのは心の中でだけや」

雲野の話も涙目で聞いている組員を中条は叱る。叱られた組員は姿勢を正した。

「ほな時間ですな。行きましょ」

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