第26話 回復ポーション肉まん
「でも考えましたよね、稼げる席がないんだったら持ち帰りだなんて」
「別に最初からそういうつもりはなくて、たまたま上手くハマったってだけだよ」
「だとしたらむしろ凄いですよ! お客様のことを考えていただけのものが実益に繋がるなんて。お客さんが喜ぶからって大盛を売りにしすぎて赤字続きってお店だってあるんですよ」
「それはそうかもだけど、なんていうかとにかく褒められすぎるとこう、背中の辺りがゾワゾワってするからあんまり褒めないで」
「あはは、了解です。自分朝ご飯できるまで外の掃除してますね」
「ありがとう! さて……それじゃあつくっていきますか!」
第3区画が解放された翌日。
最近朝ご飯を店で食べる習慣がつき、今日もそれに付き合うため早めに出社する彰君。
無理矢理付き合うように言ってるわけじゃないけど、自分の時間を削らせてしまっているような気がして朝ご飯は昼や夜よりもなんなら気合が入る。
それに今日はイキリ爺が必死にリスポーンキルを頑張ってくれたおかげで手に入った『ボアこま塊』、これを使って初めての肉まんづくりをするってんだから朝なのにちょっとテンションも上がるってもんさ。
生地はコムボールからドロップした食材を利用。
なにか手を加えることをしなくとも、既に発酵されそのまま使えるこれが本当に便利。
しかもダンジョン食材の特性として腐ることがないから手間となる生地を練るって作業が省かれるからかなりお手軽。
持ち帰りを始めるのにこれほど気軽なメニューはない。
店が始まる前の仕込み時間は慣れれば30分もいらないんじゃないか?
「ボアこまはもうミンチにしてあるからこれを混ぜて……包んで蒸すだけ」
餡となるボアこま、それに鶏ガラスープ、ごま油、砂糖、長ネギ、ニラ、玉ねぎ、醤油、片栗粉、これをボウルに入れて混ぜ合わせて、次に生地の真ん中を少し厚めながら伸ばして包む。
そして蒸し器に湯を沸かして約20分。
工程はかなり少ない。これなら作業が簡単な分、パートさんやバイトさんにも手伝いはできそうだし、片手間に準備できるからお客さんを待たせるってこともなしでさっさと提供ができそう。
利益はあんまり考えてなかったけど……ネットのデリバリーなんかも利用すれば結構いいんじゃないか?
店の増築前にもうちょっと人を増やせればって思ってたから、これは嬉しい誤算だな。
「――そろそろかな」
蒸し器を開けると、湯気が立ち上りふっくらと蒸し上がった生地からほんのりと甘い香りと餡の醤油とごま油の香りが鼻腔をくすぐる。
記事は胡麻団子と同じように金色でこれまた映えが期待できる。
当然写真を撮って速攻SNSに上げる。
「見た目はよし。問題は中身だけど……。うわっちっ!!」
熱々の肉まんを1つ取り出し、気を付けながら2つに割る。
すると、さっきまで感じていた匂いが一層強まり、厨房全体を支配していく。
そしてボアこまの脂肪部分が効いてるのか、とろみを帯びた旨味のスープがどろりとまるでチーズのようにこぼれそうになり、俺はそれが床に落ちないように慌てて吸った。
「……。めちゃくちゃ濃厚。なんだ、これ……」
少量なのに口の中がねっとりとした餡でいっぱいになった感覚。
だからって嫌なくどさはなく、あるのは沢山食べているという充実感だけ。
「この濃厚餡が、ふわふわな生地と合わさると……。はぁ……もう満点。優勝」
彰君員は申し訳ないと思いながら我慢できずに一口。
外側ふわり、中もっちりの比較的軽めの生地が餡を引き立て、それでいて餡の濃さ故にそとれ反する生地は存在感ばっちり。
肉まんとかあんまんとかって生地部分がないがしろになっていることが多いけど、この肉まんは相乗効果でおいしくなってる。
しかも、胡麻団子と一緒で体のダメージが消えていくような感覚、プラスして8時間以上寝てすっきりした時の心地よさみたいなものもあって……命名するなら回復ポーション肉まんってところかな。
「これは早く彰君と真波にも食べさせたいな。それにこっちも――」
「おっはよー! 朝ごはん食べに来たよ! ってなにそれ!?」
「このアイドルはどうしてか鼻が利きますな。頼まれてたもんできたよ」
「うわぁ、肉まん? めっちゃおいしそうなんですけど! 1個いいよね?」
「いいけど、熱いから気を付け……」
「あっふい!! でも美味しい! しかもこの具、これ角煮まんだったんだね! 最高!」
実は何匹かホーンボアを倒している間にボアブロックという食材もドロップしていた。
普通の肉まんと角煮まん。
この2つで増築までの期間、まだまだ売り上げ伸ばして――
「あっ!! もう! 出来上がってるなら早く言ってくださいよ! 自分たちだけで食べてズルいですよ! ってまさか相坂、真波……さん?」
「あれ? はじめましてだっけ? たまーに来るからよろしくね! えーと……彰君!」
「自分の名前を今話題のアイドルが……。でも、なんで? あっ! もしかしてお二人はそういう関係で……なるほど、この肉まんは合挽で逢引のきっかけにもなると……」
「柄にもなくなに言ってるの彰君?」
「そ、そそそそそそそそそそうだよ! これはただ、ただ飯せびってるだけなんだからね!」
「いや、真波。その言い方もどうかと思うよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。