出逢いを唐突に
ろくろわ
パンでアタック!
大学生にもなって少女漫画のような様々な出逢い、イベントを求めているのは可笑しいって自分でも分かっている。
しかもそれがパンを口にしたまま意中の人にぶつかると言うアレを一番に望んでいる。
朝の慌ただしく過ぎ去る時間。
余裕の無い私が、朝食のパンをくわえて曲がり角で出逢う愛しい貴方。
奇跡的な確率にかける毎日は既に数えきれないものになっていた。
惜しい日だって増えてきていたのに、それだからだろうか。貴方は曲がり角を警戒するようになり、また擦れ違う日が増えてきた。
でも今日こそ上手く貴方と出逢うことが出来ると確信がある。私は奇跡が起きるのを待つのではなく、起こす事にしたのだ。
下調べは十分にした。
朝七時。
貴方は毎日同じ時間に起きて珈琲をセットし洗面所に向かう。珈琲豆は最近、コメダ珈琲店の豆を良く使用している。
七時十五分。
少し冷めた珈琲を飲む貴方は朝食を取らない。飲み終えたカップを流し台に持っていくけど、洗うのは晩御飯を食べた後。
七時二十三分から三十分頃。
貴方はトイレや整髪の為に再び洗面所に向かう。いつも二十分程かけてセットしている。
八時。
家を出て最寄り駅まで十三分かけて歩いていく。途中、必ずコンビニに寄って水とその日のパンとミンティアを買うから、駅に着くのはいつも八時二十五分。三十分発の普通電車に乗り大学のある最寄り駅までは三駅、電車に二十分間乗車する。先頭車両、乗り口と反対側のドアに持たれるのが貴方の指定席。
八時五十七分。
最寄駅から歩いて私の家の近くの曲がり角を通り大学まで十分かけて歩き、九時十五分には大学の講義室に着席し九時半の一限目の講義を受ける。
殆ど変わらない貴方のルーティーン。
つまり私の家の近くの曲がり角に来るのは九時五分前後。いつもこの時間に待っていたがそれだけじゃダメだったんだ。
そして今日。
私は大学前の駅近くの踏み切りでその時を待つ。
八時五十分。緊急停車ボタンを押すと足早にそこから離れ、曲がり角で彼を待つ。
電車が遅れいつもより余裕がなくなった貴方はきっと走ってくるよね?
いつもより遅くなった時間に私が曲がり角にいるとは思わずに来るよね?
カーブミラー越しに走る貴方が見える。
私の胸が高鳴るのがわかる。焦っちゃ駄目。
ミラーに写る貴方が大きくなる。
私は少し離れたところからパンをくわえ準備をする。
ミラーに写る貴方が一度立ち止まる。
そこで立ち止まるのも私は知っている。ワンテンポ遅らせ、私はアクセルを回した。
やっと貴方と出逢える。
「あっ。お前は」
ドン。と鈍い音と共に貴方が少し飛んで倒れた。私と私の原付も彼の近くで横に倒れた。私は立ち上がりながら用意していた言葉を掛ける。
「いったぁ。ちょっと何処見てんのよあんた」
ニヤニヤが止まらない私。
だけど貴方の反応が思っていたのと違う。ひきつった顔で私の事を見て口をパクパクさせている。
ちょっと何だか少女漫画とは違う。
それならプランBの方に変えよう。
私は倒れた原付を起こすと彼の方に向け、再びアクセルを回す。彼の小さな「あっ」と言う声が聞こえた。
大丈夫。心配しなくていいの。記憶の無くなった貴方は私が支えるから!
でも、そうね。念には念を入れてもう一度轢いておこうかしら。
私が
身動きのとれない私は更にプランCに移行することにした。
あぁ愛しい貴方よ。
悪の手に捕えられた私は狭い檻の中から救いだしに来て。
私は少女漫画のような出逢いを求めている。
貴方が迎えに来たときの台詞は既に決まっている。
「遅かったじゃないの馬鹿!」
押さえつけられた私は明るい未来に笑みがこぼれた。
了
出逢いを唐突に ろくろわ @sakiyomiroku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます