第三章 34話 陸上自衛隊 琉洲奈島警備隊のフェンス4


 日本各地の自衛隊の駐屯地の近隣には市営住宅や昭和の木造モルタル二階建住宅が多い。少数だが旧帝国陸軍由来の古民家も残っている。自衛隊敷地にまで枝を伸ばす桜のある屋敷はその旧軍からの古民家だ。この一帯は旧軍関係者の邸宅が多かったが、高齢化と無人化がすすんでいた。


 


 琉洲奈島は特に過疎化が激しい。島の若者の多くは進学と就職で島を出て行ってしまう。

 残された住宅は高齢者だけになり、やがて放置されてしまう。


 

 売りに出しても思ったような値段にはならない。島への移住する人もいるが、その生活環境の違いからトラブルも発生していた。琉洲奈島の空港近くでは集団移住してきた人々と住民の間で大きなトラブルが起きていた。

 


 琉洲奈島駐屯地に隣接する住民のほとんどが琉洲奈島で生まれ育った人たちだ。慣れ親しんだ環境で顔見知りの人々と穏やかに生活していた。


 

 島の外からの人を島民は警戒するものだが、自衛隊と島民はとてもいい関係を築いていた。明治時代から軍の拠点としての歴史があり、その流れで駐留している自衛隊はすでに島の人という認識になっていた。


 

 自衛隊員は島の祭りにも呼ばれ、様々な行事に参加した。


 

 島の人たちや行政が自衛隊の活動に協力的なことで、島内の懸案箇所を自衛隊員が巡回警備しやすく、自衛隊車両を歓迎してくれるほどだった。

 様々な日常生活の中でも自衛隊は溶け込み、島民の不安に答えた。災害だけでなく、離島では医療設備が充実しておらず、重大な疾患や事故が起きた場合、自衛隊がヘリで患者を輸送することもあった。地道な活動が認められた結果だ。

 


 船やボートなどが着岸しそうな浜辺や入り江の巡回警備も、訓練の合間に自衛隊が行っている。外国からの漂着ゴミの回収で住民からは有難がられていたが複雑な地形を調査しておくことが有事には重要な力になる。


 その巡回で過疎地の島民避難路ルートを設定し、非常時に道が寸断されても災害時に住民を救難する方法も検討できる。地域の情報収集活動を自由にできれば、非常時の備えを万全にできるのだ。島の人たちが迷彩服の隊員や自衛隊車両を見かけると、手を振り、休憩のお茶を持ってきてくれるほどにいい関係が構築されていた。


 基地にまで桜の枝が侵入してくるほど、陸上自衛隊の敷地と住宅地の距離は近い。


 これほど近いと情報流出や外部からの侵入のリスクが高い。


 自衛隊駐屯地周辺の土地取引にこれまで規制は無かった。


 琉洲奈島は過疎化しつつあり、基地近くの住宅に空き家が多い。住民との良好な関係を維持してきたが、次の入居者が自衛隊に友好的かどうかは分からない。



 近くの住宅から自衛隊の様子は丸見えだ。


 基地周辺は広く見通しのよい場所が間にあるほうが侵入者は施設に近づく前に撃退できるが、この距離ではなすすべがない。


 


 すでに琉洲奈島では海上自衛隊の基地に面した土地が外国資本のホテルとなった事例もあった。


 外国では軍隊周辺の土地を簡単に売買できないようにしているが、現行法では届け出義務があるが土地売買を止めることは難しい。

 

 重要な軍用施設の周辺の土地が空き家で転売される危険があれば、先にその土地を買い取ってしまうくらいしか手がない。

 


 琉洲奈島警備隊は空き家となった近隣の家に変化がないか注意深く見守っているが、個人の土地売買にまで文句を言える権限は自衛隊にはない。


 自衛隊の演習地や土地が売り払われることも多く。



 憲法に明記されていない組織として自衛隊は肩身の狭い思いをしているのだ。しかし、文句を言っても仕方ない。与えられたルールとそのフィールドでできることをやるしかない。

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