第三章 33話 陸上自衛隊 琉洲奈島警備隊のフェンス3

 さっさと本題に入ったほうがいいと古舘は判断した。


 せっかく、この家の関係者に会えたのだ。今話をつけたほうが早い。

 「いえいえ、押し売りじゃないです。失礼しました。わたくしはそこの自衛隊のものです。」

 

 古館は門から庭に入って女に名刺を差し出した。女はそれを受け取っていぶしかげに確認していた。


 「お宅の桜の木のことでお願いに上がりました。なんどか、お手紙で剪定の依頼をしていますが、自衛隊の敷地内に枝が来ているもので……。部隊の安全上、剪定させていただきたいと……」

 古舘は庭隅にある桜の幹を指さした。枯れた雑草の上にも雪が積もっていた。

 

 「さ・く・ら ? あ~~ これ?」

 「はい、その木です。自衛隊の敷地のほうに枝が伸びていまして……」

 

 ずっとうつむいたままだった女の視線が桜の幹から枝を辿った。確かに住居側の枝は剪定していたが、道に面した側の枝は横に伸び放題だった。

 「庭に人が入るのはいや!庭に入らないで。切るなら外から勝手にやって!それでいい?」

 その女は、枝ぶりを確認するとさっと顔をそむけた。

 

 「家に入らないということは、道路側からなら剪定してもいいということですか?」

 佐々木宅の外側に脚立をたてて作業をすればいいのだろうかと身振りで示した。

 

 「そうよ。もういいでしょ。」

 女は虫でも追い払うかのように右手をシッシッと振った。失礼な女だ。



 古舘は内心イラッとしたが、剪定の同意が取れれば充分だ。

 

 「ありがとうございます。では、いつならいいでしょうか?」

 「そんなん、勝手にやってよ。いちいち聞くこと?」

 面倒臭そうにその女は答えた。

 

 「いいえ、ではこちらでやらせていただきます。ありがとうございます」

 機嫌をそこねてせっかくの剪定の同意を反故にされたくなかったので古舘はすぐに引き下がった。

 

 その作業着の女は庭の奥の物置に入り鍵をどこからか取り出してきた。手慣れているところを見ると親戚というのは嘘ではないのだろう。


 よく見ると女が頭に巻いていたタオルには小さな斑点がたくさんついていた。

 まさかとは思うが、それが古舘には黒カビに見えた。


 もう一度見ると、どことなくこの女の様子はおかしい。

 真冬にはだしでスリッポンをはいている。

 

 「何?じろじろ見てんねん、やめてぇな」

 女は怒鳴り、古舘を門の外へ追い出した。

 

 「二度と来んな!」

 「はいっ!失礼いたしました。剪定はこちらでご迷惑かけることなくやらせていただきます」

 

 玄関を開けて家に入ろうとする女にもう一度言った。

 引き戸が乱暴にバシッと閉められ、ガチャガチャと上下の鍵を閉められた。よほど嫌われたらしい。

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