第二章 第15話 #8-1 下琉洲奈監視所 吉村パメラ
海上自衛隊は琉洲奈島の山の中に下琉洲奈監視所、島の中央に琉洲奈中央警備隊がある。
琉洲奈中央警備隊は金田城跡の城山の近くの海岸沿いにあり、海上自衛隊らしくミサイル艇や掃海艇などが接岸できる桟橋がある。海上自衛隊の施設も海上の監視のために標高の高い山中に置く場合があり、下琉洲奈監視所は規模が小さくレーダーや様々な機器類を使っての海上監視を行っている。
吉村パメラは高校卒業と同時に海上自衛官の一般曹候補生に合格した。
教育隊の分隊長に優れた聴覚がレーダー監視に適していると言われ、その道を選んだ。艦艇のソナーマンになると想像していたが、最初の配属がこの琉洲奈島での海峡監視任務だった。
しかし、陸上自衛隊から琉洲奈警備隊長・天寺還郷一佐が才谷病院長とともにやってくるという連絡をうけて、下琉洲奈監視所は大騒ぎになった。
この
陸上自衛隊と海上自衛隊とは別組織であり、陸自の幹部が海自を突然訪問することはまずない。自衛隊の医官以外の医師が診察に突然来ることも異例だが、才谷病院長に天寺警備隊長が同行する理由も想像できない。
佐武はどう対応して良いか迷い、佐世保総監部に問い合わせた。
琉洲奈島を含め九州の海上自衛隊は佐世保総監部が統括している。総監は天寺琉洲奈警備隊隊長が下琉洲奈監視所を訪問する連絡を受けていなかった。そもそも海上自衛隊と陸上自衛隊は別の命令系統であり、陸自の要請に海自が答える習慣は無い。これが統幕からの話であれば別だが、そういった情報も佐世保総監は受けていない。命令系統が違う一等陸佐を基地内に招き入れていいのか疑問だった。いったい何をしに来るのか?
天寺の訪問の扱いを決めかねている中、佐武に一本の電話があった。
「私は防衛大臣・山崎あたるの秘書官をしております松下勝と申します。下琉洲奈監視所司令の佐武吉宣様ですか?」
「はい、佐武でございます」
「本日、陸上自衛隊・琉洲奈警備隊隊長の天寺還郷氏が下琉洲奈監視所を訪問し、患者の診察に立ち会うことをお許しいただきたい。これは、防衛大臣からのお願いです。」
「はい?」
防衛大臣秘書官という雲の上の人が、こんな辺境な島のレーダー監視所に電話をかけてきた。ありえない事態だ。
「佐世保総監にもこちらからお願いしておきます。後ほどご確認ください」
「はい、了解いたしました!」
佐武の電話を置いた手が震えていた。
コレはただ事じゃない。
「おい、陸自の天寺還郷警備隊長がいらっしゃる。準備しろ」と叫んでいた。
どうして陸自の警備隊長が突然やってくるんだと隊員たちは怪訝な顔をした。
「パメラ、才谷先生がもうすぐいらっしゃる。発熱した中田与志男三曹の様子はどうだ?変わったことがあるか?」
才谷病院長との連絡係だったパメラが答えた。
「朝、微熱があるといっていました。」
「中田は隊舎でほかの隊員と同室なのか?」
佐武はいやな予感がしてパメラに聞いた。
「新型コロナ感染症の検査は陰性でしたが、念のために隔離しています」
感染症ならば、すでに下琉洲奈監視所内に広がっている可能性がある。
「パメラ、君の体調は変わりないか?ほかに体調不良のものはいないか?」
「中田さんだけです。才谷先生にも聞かれましたが、中田さん以外のほかの隊員に不調を訴える人はいません」
佐武司令はパメラに隔離されている中田の様子を見に行くように命じた。ただ、中田の部屋には入室するなと付け加えた。新型コロナ感染症の第六波の患者数が増え、福岡でも多くの陽性者が出た。まん延防止等重点措置及び福岡コロナ特別警報が発令された。琉洲奈島でも1月に患者数が増加した。県の方針へ右に倣えで琉洲奈島の陸海空自衛隊は外出禁止令を発令した。どうしても必要な日用品を買うときだけ、短時間の外出許可を出したが飲酒はできない。外出を禁じてすぐに島の陽性者数はすぐに激減した。
自衛隊の基地内では飲酒そのものが禁じられていた。福岡ではまだまだ感染者は増え続けていた。
島から外へ出るのは禁じられたままだが、島内の特別警報は2月10日、早々に解除された。
その最初の金曜日の2月18日は当直以外の隊員はほとんど外出していた。中田もそのひとりだ。
ほかの隊員たちは深夜には隊舎に帰っていが、中田だけは早朝の六時に帰還した。外泊許可も取らずに一人だけ朝帰りだった。隊員の中ではいろいろ勘繰るものもいて、ちょっとした噂になった。
「中田さん、途中で陸自の九十見と二人で店をでましたよね。あの後、どこいってたんですか?」
「新しい彼女でもできたのか?結局、朝まで帰ってこなかったよね」
からかう同僚に中田はつまらなさそうに答えた。
「朝まで男と浜辺をツーショットで歩いていたよ」
「男?」
「陸自の士長だ。
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