玄関の前

 これは近畿地方のある住宅街で私のもとに起こった出来事だ。

 私は、当時システムエンジニアの仕事をしており、自宅から最寄りの駅まで自転車で行き、駅から電車に乗り、隣県にある会社まで通っていた。

 家から会社までの通勤時間は一時間半くらい。午後五時が定時であった。

 仕事に就き一年目ということもあり残業もほとんどなかったのだが、私は本が好きでよく本屋に寄っていたので、帰るのは午後八時前後ということが多かった。

 そんな生活を続けていたある日のことである。

 その日、いつものように本屋に寄ったために午後八時頃に自宅に着いた私は玄関のドアの鍵を開けている最中にある違和感に気づいた。

 私の当時の自宅の玄関前には一本の小さな木が植えてあったのだが、その木の裏側(道路から見て家側)に”何か黒い塊のようなもの”があったのだ。

 玄関灯は点いているものの、遠くからでははっきり見えない”それ”が気になった私はのっそりと近づいた… ”何か黒い塊のようなもの”の正体は…

 カラスの死骸だった…

 内臓や骨が飛び出ており、羽がボロボロで…

 何かに引っかかれたような跡があり…

 まるで何か獰猛な獣に襲われた後のような…

 そういった状態だった…

 車に轢かれた後のような感じでもないし…

(そもそも、轢かれたのなら木の裏側に死骸があるのはおかしい。)

 まるで…

 何者かがカラスを殺し、木の裏側に隠したかのような感じだった。

 自宅周辺には野良猫や野良犬はおらず…

 近くに川があり、その川には鷺と鴨がおり、後、カラスと雀と蝙蝠も生息していたが、どの野生の動物もそんな跡をつけるとは思えなかった。

 ただ、住宅街なので犬を飼っている家は所々あったので…

 誰かの飼い犬がそんなことをしたのかもしれない…

 ただその場合どの飼い犬も放し飼いにされていなかったので…

 その犬の飼い主は見て見ぬふりをしていた可能性が高くなるが…

 しかし…

 原因がどうであれ…

 ”何”がそのカラスをそのような残虐な形で亡き者にしたのかは、当時は家に監視カメラがなかったため、結局のところ不明であった…

 市のHPHPを見て行政の指示通り私はその次の日、きちんとカラスの死骸をビニール袋に二重に入れて感染対策をして、焼却ゴミとして処分した……

 今でもあのカラスを殺した者が何者か気になっている。

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