マッチングアプリで待ち合わせ
今日、俺は、駅前でマッチングアプリで知り合った女性と待ち合わせをしている。
駅前の木々に止まっているセミの鳴き声がひどくうるさい。
汗がダラダラとたれ、喉が渇く…女性はまだなのだろうか…時間を確認するために時計を見る。時刻はちょうど待ち合わせの時間となっていた。
すると、俺の目の前に黒髪ロングの女性が現れた。誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡している。すかさず声をかける。
「あの~ゆきちゃんさんですよね?」
”ゆきちゃん”とは彼女のマッチングアプリでの名前だ。
女性は俺の声掛けに反応して俺の顔を一瞥したかと思うと、すぐに目を逸らしつつものっそりと近づいてきた。
「はい…そうです…」
女性の声はひどく小さく、ずっと目線を俺の方には向けず、まるで何かに怯えているようだった。俺の顔がそんなに怖かったのだろうか?
にしても、挙動不審過ぎる…今回も地雷か???
いや…
けど…
可愛すぎるだろ!!可愛かったらなんでも許せる!!!
そう、彼女は俺の好みどストライクだった。猫目で奥二重の瞼、長いまつげ、高い鼻、どれもどストライク。白いワンピースに黒いカーディガンというシンプルな服装も良き。俺がそんな風に彼女に対する自分の様々な評価を頭の中でずっと呟いていると…
彼女が突然、「暑いので…どこか喫茶店でも行きません?」と提案してきた。
俺は実は、別の予定を考えていたのだが、確かに、外は暑く、喉がカラカラだったので、彼女の言う通り、喫茶店に行った。
喫茶店は全国チェーンの店で、円型のデニッシュの上にソフトクリームが乗っているデザートで有名な所だった。店に入り席に座って俺は早速そのデザートとアイスコーヒーを頼んだ。彼女はダイエット中らしくアイスコーヒーだけを頼んだ。
注文したものが全て来た後、俺たちは話し始めた。お互い偶然オタクだったこともあり、好きな漫画の話やアニメの話で盛り上がり、時間を忘れて語り合ってデザートのデニッシュの上のソフトクリームが完全に溶けていることにさえ気づかなかった。
彼女は、話しているときも、目を合わせてくれなかった。お互いの目は合わなかったが、話は合ったというのは少し皮肉めいている。
ある程度話した後、話す内容も尽きて、頼んだものをお互い口に入れ始めた。俺がアイスコーヒーを飲んで、デニッシュにフォークを刺した際、彼女が何か思い出したような顔になってスマホで時計を確認した。なんだかそのしぐさは演技ぽかった。彼女はすでにアイスコーヒーを飲んでおり、いつでも帰れる状態だった。次の予定があるのにまずい…
「ちょっと…これから用事がありまして…帰らせていただきます」
「いやちょっと待って!」
俺は自分の次の予定のためにも、強く言い放って、強引に彼女を引き留めた。
彼女は八の字眉を浮かべてひどく困惑している様子だったが、仕方なく待ってくれた。相変わらず視線は俺の方に向いていない。
俺がデニッシュを食い終わり全額奢ると、彼女と駅前に向かった。
駅前にある、とある場所に連れていくためだ。
「すいません…本当に用事あるんで…帰ります!」
彼女は俺が連れて行った場所を見るやいなや、一目散に走り去っていった。
彼女の腕を掴もうとするも、間に合わず、彼女は遠くの方に行き、小さくなっていった。
俺は舌打ちをしながらボソッと呟いた。
「何だよ。あの糞女」
※
「はあ、はあ」
息を荒げながら、私は全速力で走っていた。
そろそろ男は撒けたか…
男は喫茶店を出た後、私を駅前にあるラブホテルに誘っていた。マッチングアプリで見る限りでは、真面目な人だと思ったのに…
というか…そもそも、男と会った瞬間に逃げるべきだった。
男に初めて会った時からずっと…
赤子の幽霊が男の右肩の上についていて…
男の首を締めるかのように両手を広げていたのだから…
多分、あれは…
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