9話

  俺とラウルが襲撃されてから一週間が過ぎた。


 ジュリアスが襲撃した犯人や黒幕について簡単に報告をしてくる。


「……殿下。どうもラウル様を襲ったのはスフィア侯爵の手の者のようです。雇われた暗殺者といったところでしょう」


「ふうん。スフィア侯爵か。じゃあ、叔父上を襲わせたのは何の目的があったんだろうな」


「陛下の推測だとラウル様は王太子であるエリック殿下とよく一緒に行動するようになったでしょう。それが一つの理由ではないかとおっしゃっていましたが」


 よくわからないながら俺はふうむと唸る。つまりはラウルが王太子派に与(くみ)する者と見なされたという事か。ていってもラウルはまだ7歳の子供だぞ。


「んで。その刺客はどうなったんだ?」


「……騎士達で捕縛しましたが。牢獄に連行している間に仲間によって始末されたとか。おかげで捜査は難航しています」


「……そうか。だとすると今後も叔父上が狙われる可能性は高いな」


「恐らくは」


「わかった。ジュリアス。裏の事にも精通している騎士がいたら連れてきてくれ」


 俺が言うとジュリアスはきょとんとした表情になる。


「え。裏の事にも精通している騎士ですか。何故とお聞きしても?」


「……俺が言いたいのは叔父上や俺、父上達も狙われる危険性が非常に高いという事だ。もしもの時のために叔父上の警護も強化しておきたい。俺のもな。

 今回、俺と叔父上を狙った奴らは裏の稼業の連中だ。そいつらが襲撃してきた時に即座に対応できる奴が今は必要だという事はわかるな?」


「確かにそうですね。裏の稼業の連中に太刀打ちできるのはそちらにも詳しい人間という事になりますね」


「そうだ。なので明日からでいいからそういう奴を引き抜いて叔父上と俺の護衛に付けるようにできないか?」


「……陛下にもお話はしておきます。許可を得ないといけませんから」


 俺は頷いた。確かに親父にも許可はもらっておいた方がいいだろう。


「では。早速、陛下にお話をして。それから、裏の稼業に詳しい騎士がいないか同僚などに訊いてみます」


「……いや待て。同僚などに訊いていたら時期がかかり過ぎる。仕方ない、騎士団長にも協力してもらおう」


「……騎士団長にですか」


「何か不満か?」


「いえ。不満はありません。ただ、父に今回の事がばれたら殴られそうですので」


 俺はジュリアスも大変だなと遠い目をした。ウィリアムス師は結構腕っ節が強い。喧嘩っ早くもある。なので息子であるジュリアスとオーギュストは殴られて育ったといっても過言ではないだろう。


「……わかった。騎士団長には俺から直接頼んでみる。その方がいいだろうしな」


「殿下。それは有り難いですが。父は子供といえど譲る人ではないですよ」


「それでも叔父上を守るにはウィリアムス団長の助力も必要だ」


 俺がきっぱりと言うとジュリアスは驚いたらしくまじまじと見る。


「何というか殿下も大人になられましたね。まだ3歳には見えません」


「……褒め言葉として受け取っておく。早速行くぞ」


「はっ」


 キビキビとジュリアスは返答して騎士の礼をした。俺はジュリアスと同僚らしい他の護衛騎士2人を引き連れてウィリアムス師のいる騎士団の棟を目指して部屋を出た。


 行くのは騎士団長の執務室だ。よっし、ウィリアムス師に直談判するぞ!



 俺はジュリアスに案内を頼み、騎士団の棟に入った。多くの騎士達が俺の姿を見て驚きの表情を浮かべる。軽くどよめきが起きていたが。


 気にせずにずんずん進む。ジュリアスが二階に続く階段を指し示す。


「あちらの階段を上って右に曲がった部屋が団長の執務室です」


「そうなのか。ジュリ、案内ご苦労だった。後は俺一人で行く」


「……殿下。それはいけません。一人で行くのは危険過ぎます」


 しばらくジュリアスと睨み合う。先に根負けしたのはジュリアスだった。


「わかりましたよ。殿下はどうしても父に会いたいんですね。まあ、叔父君であるラウル様が心配なのはわかりますが」


「だったら通してくれ。俺は行く」


 ふうとジュリアスは息をつく。俺は階段を上がる。一段ずつ上がっていくが。


 すぐに息が上がってしまう。それでも必死で二階を目指した。


 ぜいぜい言いながらもウィリアムス師の執務室まで歩いた。が、後もう少しの所で力尽き、ぺたんとへたり込んでしまった。見ていられなかったのだろう。


 慌ててジュリアスと騎士達が階段を駆け上がってくる。


「……殿下。大丈夫ですか?!」


「……うう。ジュリ、水……」


「ああもう。言わんこっちゃない。わたしが抱えて行こうと思ってたのに。無茶し過ぎですよ。殿下」


 ジュリアスはやれやれと頭を抱えながらも俺の腕を引っ張り上げた。ぐいっと引っ張られて立ち上がる事ができる。


「……すまん。ジュリ」


「いいんですよ。殿下が一人でここまで来られたのは大きな一歩には違いないですから。父もきっと話を聞いてくれますよ」


「だといいんだが」


「行きましょう。殿下」


「……ああ」


 俺は頷いてジュリアスや騎士達と共に執務室に行く。ドアをジュリアスがノックしたのだった。

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