6話

  俺が驚いているとラウルが口を開いた。


「……あの仕事の鬼で有名なフィーラ公爵の娘だったのか。けど似てませんね」


「ほんまやな。フィーラ公爵さんには似てへんな」


「……あの。スズコ様。ラウル叔父上?」


 俺が訳が分からずにいるとシェリアたんはにこりと笑う。


「ごきげんよう。エリックさま。わたくしのことしょうかいしてくださったのですね」


「ああ。こんにちは。シェリア殿」


「わたくし、エリックさまといっしょにおさんぽしようとおもってきました。ごいっしょしませんか?」


 ええっと。俺はいいが。ラウルの冷たい視線が痛い。


 気のせいかスズコ様は苦笑しているし。何でだ??


「……ラウル。そないに小さい子を睨まんとき。エリック君が怖がってもとうやないの」


「エリック殿下。シェリア殿と一緒に散策なさるのはいいですが。怪我させたりしたら。わかってますよね」


 ラウルはにこりと笑いながら脅してきた。はっきり言って目が笑ってないぞ。


 てか普通に怖えから。ラウル、まだこいつ7歳だよな?何で圧力を感じるんだ。


「……ラウルさまとおっしゃるんですね。はじめまして」


 シェリアたんがラウルに向き直りぺこりとお辞儀をする。うん、可愛い。


「ああ。こちらもはじめましてと言うべきかな。エリック殿下の婚約者さんだったんだね。君は」


「そうです。エリックさま。わたくしとあったときはたおれてしまわれて。あのあとからえっと。4かくらいかな。おからだはだいじょうぶですか?」


 ラウルに頷いた後、シェリアたんは俺の心配をしてくれた。同じ3歳(俺だが)とは思えない。


「……ああ。心配をかけて悪かった。もう大丈夫だよ」


「そうでしたか。よかったです」


 二人していい雰囲気になっていたらラウルが俺の肩をぽんと叩いた。冷気を感じる。


「……殿下。剣の稽古がまだでしたね。今日は僕と一緒にやりませんか?」


「えっと。わかりました。お手柔らかにお願いします」


「では行きましょうか」


 俺はラウルにがしりと片腕を掴まれた。けっこう痛い。


「……じゃあ。シェリア殿。また会おうな~」


 ズルズルと引き摺られながら俺はシェリアたんに別れの挨拶を言った。シェリアたんは驚きながらも手を振ってくれたのだった。



 ラウルと剣の稽古をする。剣術の先生は現騎士団長で名をウィリアムスという。ちなみにジュリアスの父君にもなるが。ジュリアスには弟もいてオズワルドと言ったはずだ。


 ちなみにオズワルドは「華やかなる貴公子たち~フォルド王国物語~」の中に出てくる主要キャラで攻略対象である。ジュリアスはオズワルドのすぐ上の兄でゲームでも出てきた。ジュリアスはいわゆるサポートキャラではあるが。顔立ちがイケメンなのと性格が面倒見のいい兄貴と言った感じでプレイヤーには人気があった。


 オズワルドは一言で言うと脳筋だ。けどそれは外見だけで性格は穏やかで細やかな気配りができる優しい男である。


 さて、ウィリアムスに言ってラウルと剣術の稽古を木刀で行う。カンカンと打ち合う音が響く。


 俺はまた自分が3歳だという事を忘れていた。すぐにラウルに木刀を掬い上げられて体ごと吹っ飛ばされた。


「……くっ」


 俺はざざあと1メートルほど向こうの地面に叩きつけられる。


「……ラウル様。エリック殿下はまだお小さいのです。手加減はしてください」


「わかっている。が、殿下に手加減したらかえって良くないだろう。あなた方はそう言って殿下を甘やかしているのか?」


「そんな事はないですが」


「だったら今後は厳しくする事だ。殿下は将来この国を背負って立つ身だ。心身共に強くなくてどうする」


「……確かにそうですね。すみません。ラウル様」


 ウィリアムスは深々と頭を下げる。ラウルは鷹揚に頷いた。


 くっそ。俺がもっと大きくて強かったら。叔父上に勝てるのに!!


 悔しくて手で土を掴んでいた。すぐに自分でよろよろと立ち上がった。


「叔父上。俺は絶対にあんたには負けない。いずれ、あんたを打ち負かすくらい強くなってやる!!」


「……いいだろう。明日から僕も稽古に加わらせてもらう。ビシバシするからそのつもりでな」


「わーってるよ。叔父上。俺に手加減なしなのは文句は言わねえよ」


 ラウルがふうんと笑う。


「お前。以前はただの甘やかされたボンボンだとばかり思ってたが。今のお前だったら仕えてもいいな。その代わり、切磋琢磨しろよ」


「わかってる。ラウル叔父上にはそうでもしないと追いつけないって今日思い知らされたよ」


 ラウルはにやりと笑った。


「面白い。できるもんならやってみろ」


 俺はふんと鼻を鳴らしてラウルを睨みつけた。二人してガンを飛ばし合ったのだった……。


 しばらくしてウィリアムスにいい加減にしろと怒られたのは言うまでもないが。

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