第179話 Side - 16 - 8 - においをかぎましたぁ! -

Side - 16 - 8 - においをかぎましたぁ! -



(聞こえますか・・・今私はお義母様の頭の中に直接話しかけています・・・聞こえますか・・・)


「うん、聞こえるよキティちゃん」


(私は今お義母様の後ろに居るの・・・後ろだよ)


「え、後ろ?」


(ばぁ!)


「わひゃぁぁ!・・・驚いたの・・・今一瞬だけキティちゃんのお顔が見えたの」


ぴょこぴょこ・・・


かきかき・・・


「どうですか、少しだけ念話でお話出来たし実体化も上手くなってる気がします!、魔力は前より強くなったけどまだ普通にお話しできる状態じゃないですね」


「うん、でも何となく気配を感じるようになったよ・・・、最近パパはお仕事で忙しいでしょ、リゼたんはいつも色んなところに行ってるし・・・、コナンきゅんはお誕生会が終わってすぐ日本に戻っちゃったから今日は私一人で寂しかったの、キティちゃんが居てくれて嬉しいな・・・」


こんにちは、私の名前はハロキティ・リラックーマァ、ゴーストになってしまった私は今、お義母様と一緒にお庭で午後のお茶を楽しんでいます。


もちろん私はゴーストだからお茶は飲めないし、お話が出来ないので紙の束とペンを持って会話しています。


お義母様が喋って、その横にふよふよ浮いている紙とペン、椅子に置かれているリゼぐるみ・・・側から見るとお義母様がお人形相手に独り言を呟いてるように見えますね・・・それから最近になって念話のようなものが出来るようになりました、魔力を使って相手の頭の中に直接語りかけるのです。


「えへへ・・・久しぶりにお会いしたコナンザ様、綺麗だったなぁ・・・それに・・・うふふ・・・お風呂で全裸も見ちゃったし・・・ベッドで寝顔も一晩中鑑賞しちゃったぁ・・・あぁ・・・幸せ、もういつ死んでもいいっ!、あ・・・死んでるけど・・・」


「キティちゃん、本能のまま行動するのは別に止めないけど、程々にしておかないとバレた時にコナンきゅんに嫌われると思うの・・・」


「え・・・私、嫌われちゃう?・・・嫌ぁ・・・嫌われるのいやぁ!」


「本当にコナンきゅんが大好きなんだね・・・ところでキティちゃん、コナンきゅんにしたのはお風呂を覗いて寝顔を見ただけかな?、他に何かしてない?、してるでしょ、怒らないからお義母様に正直に言いなさい」


「に・・・匂いを嗅ぎましたぁ・・・ゴーストだから匂い感じなかったけど」


「それから?」


「お手洗いを覗いて音も聞きました・・・」


「わぁ・・・」


「あとね・・・えと・・・寝ているコナンザ様のお布団に入ろうとしたら通り抜けてダメだったから上から覆い被さってました・・・一晩中」


「・・・コナンきゅん、こっちに帰って来てから凄く寝苦しくてあまり眠れなかったって言ってたの」


「わぁ・・・それは・・・悪い事しちゃったかも」


「うーん、お風呂と寝顔の鑑賞までは大丈夫だと思うけどあとは正直やり過ぎだよ・・・悪霊に取り憑かれてるみたいになってるし、それ以上はやめたほうが良いと思うの、コナンきゅんが気味悪がってお屋敷に寄り付かなくなったらキティちゃんだって嫌でしょ」


「はい、でも・・・」


「でも?」


「・・・いえ、何でもないです」






どたどた・・・


がやがや・・・


「あら、お外が騒がしいね、何かあったのかな・・・」


お義母様との楽しいお茶会を終え、お屋敷の中に戻ってしばらくすると外が騒がしくなりました、廊下に出てお義母様と一緒に窓から外の様子を覗くと・・・。


「わぁ・・・」


外には血まみれの男性2人の襟首を掴んでを引き摺っている女の子、隣で泣きじゃくるお義姉様によく似た少女、それからお義姉様と聖女様っぽい服を着た少女。


かきかき・・・


「お義母様、あれは何の集まりでしょう?」


「さぁ・・・」


かきかき・・・


「あの泣いてる女の子、お義姉様によく似てますね」


「そうだね、・・・あ、そういえばパパが怪我をした女の子の療養をうちのお屋敷でやるって言ってたなぁ・・・その子かも」


お義母様の言葉に私の心はチクリと痛みました。


コナンザ様のお家に滞在する知らない女の子・・・年齢も同じくらい・・・当然コナンザ様と顔を合わせる機会もあって・・・最初は何気ない会話・・・ふとした瞬間に重なる視線・・・それが恋に発展して・・・。


(わぁぁぁぁ!)


「うわびっくりしたぁ、キティちゃんの叫び声が頭に響いたよ・・・、どうしたの?」


かきかき・・・


「いえ、ごめんなさい、何でもないです」


ようやく手に入れた私の居場所、コナンザ様を近くで眺める事が出来る夢のような時間、それをあの女の子に取られちゃうかもしれない・・・。


ダメだって分かってるのに・・・、私はゴーストだからコナンザ様のお嫁さんになれないの、コナンザ様はいつか誰かと結婚してこの家を継がなくちゃいけない。


確かに私は婚約者だったけど、もう死んじゃったからいずれ別の婚約者が選ばれるの・・・それは仕方のない事・・・でも・・・取られちゃうのは悲しいの・・・。


思ってたより早くこのお家を出て行く日が来るのかなぁ・・・。


(コナンザ様ぁ・・・)


「・・・」






ふよふよ・・・


すぅぅ・・・


「ふぅ・・・ちょっと嫌なものを見ちゃったけどお義母様とのお茶会、楽しかったなぁ」


今私が居るのはお屋敷の一番端にある日当たりが良くて快適なお部屋、私のために義両親が用意してくれたのです。


中にはドレスや宝石、何より大切なコナンザ様との思い出の品々が飾ってあって定期的にメイドさんがお掃除してくれます。


このお部屋には鍵が掛かっているのだけど私は扉を通り抜けられるから問題ありません。


「実体化の練習しようかな・・・」


そう呟きながら鏡の前に立ち実体化を試します、ほんの僅かな時間だけど私の全裸姿が鏡に映りました、昨日は一瞬だったのに・・・。


実は最近私の魔力が日ごとに大きくなっている気がするのです、初めは気のせいかなって思っていたのだけど昨日まで出来なかった事が今日は簡単に出来てしまう・・・。


先ほどお義母様にやった頭の中に直接語りかける念話も「出来るかな」って試してみたら3日目に出来ちゃった・・・。


不安になってお義父様に相談したら、騎士団のゴースト討伐経験者に話を聞いたり、書物で調べてくれたのです。


それによると魔力が周りに満ちていたり、強い魔力を持った魔物の側には強力なゴーストが生まれるらしいのです、ゴーストが討伐されずに放置されると進化してハイゴーストになったり、更に進化すると周りのゴーストを喰らい尽くす魔精霊になるのだとか。


王国の記録では魔精霊が最後に現れた450年前には街がいくつか消滅し、当時最強と言われた深淵の大魔導士様と死闘を繰り広げ、ようやく討伐されたのだそう・・・。


「条件が揃えばキティちゃんも魔精霊になる可能性があるね、何しろ我が家は膨大な魔力を持った人間が3人も暮らしてるから一緒に居るゴーストが影響を受けてもおかしくない」


お義父様がとんでもない事を言い始めたのです。


「ゴーストの元は恨みを持って亡くなった人間だからそれが精霊化したら脅威になるだろうけど・・・キティちゃんは特に暴れる理由無いよね、リゼたんの師匠であるドック氏と私も最近知り合ったのだけど・・・ある魔導士様が協力したら暴走しても抑えられるだろうって言ってたから多分大丈夫じゃないかな」


とてつもなく不穏な話を聞いてしまったのです!、私、魔精霊になっちゃうの?、っていうか魔精霊って何?、精霊と何か関係あるのかな・・・。


それと・・・もう一つ心配なことがあって・・・。


このまま魔力が大きくなったら何もしなくても実体化してしまうかも・・・それはまずいの!、コナンザ様を隠れて鑑賞できないのは大問題だけど・・・私は全裸なの!、お洋服がどうしても実体化できないの!。










・・・今日の香川県内のお天気は・・・


最高気温15度、最低気温は・・・


今週の週間予報です・・・


こくり・・・こくり・・・


「あれ、コナンザくん、もしかして疲れてるのかな?、すごく眠そうだけど」


「んぅ・・・あっ、ごめんなさい、龍之介さん、僕寝ちゃってました?」


「大丈夫だよ、でも居間で寝たら風邪をひくよ、お部屋で休んだら?」


ガタッ!・・・トットッ・・・トトトッ・・・


「ひぃっ!」


「あぁ、ネズミかなぁ・・・この家古いからいろんなのが天井裏に住み着いてるんだ、今度駆除を頼もうかな・・・でももうすぐ新築の家ができるから我慢するか・・・」


「ねぇコナンザ、シェルダンの実家から戻って来てから変だよ、すごく疲れたような顔してるし、眠そうだし・・・何かに怯えてる、もしかしてお家で何かあったの?」


「な・・・何でも無いよお姉ちゃん・・・」


「何でも無い訳ないのです、何年コナンザのお姉ちゃんをやってると思ってるの、さぁ隠し事しないでお姉ちゃんに全部話すのだぁ!」


わきわき・・・


「ひぃっ!、やめてお姉ちゃん、僕お腹くすぐられるのダメなの!」


「じゃぁ正直に話しなさい!」


「話したらおかしくなったって思われちゃうの・・・ぐすっ・・・」


「コナンザはいつもおかしいから大丈夫だよ」


「お姉ちゃん酷い!」


「冗談は置いておいて、本当にどうしたの?」


「・・・あのね」


「うん」


「シェルダンのお家に帰ってた時にね、キティちゃんの幽霊が出たの、・・・全裸で」


「え?」


「何だかずっと誰かの視線を感じて、最初は気のせいかなって・・・思ったの、でも帰った最初の夜に寝てたら誰かの気配がして・・・目を開けたら天井にキティちゃんが浮いてたの・・・全裸で」


「夢でも見てたんじゃ・・・」


「違うの!、2日目にはお手洗いに入ったら僕の横でじっと見られてたの、僕が・・・その・・・するところを全部・・・気配を感じて横を見たら全裸のキティちゃんが居たの」


「あぁ・・・そういえば朝早くお手洗いでコナンザ叫んでた事あったね」


「うん・・・目を合わせたり怖がったりすると取り憑かれるかもって思ったから、居なくなるまで見えてないフリをして叫ぶの我慢してたの・・・、それに・・・夜お風呂に入ってる間ずっと覗かれてたの、扉の隙間から・・・全裸で・・・怖過ぎて声も出なかったの・・・」


「わぁ・・・」


「3日目の夜は寝てたらキティちゃんが僕の上に覆い被さってきて・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」


「もしかして全裸で?」


「・・・うん、全裸で・・・怖かったの、身体も動かないし、声も出なくて、一晩中寝られなかったの・・・それで・・・身体が動かなかったから夜明け頃におしっこに行きたくなっても・・・行けなくて・・・」


「わぁ・・・それでメイド長のカーラさん、新しいお布団抱えてコナンザのお部屋に入って行ったのかぁ・・・」


「見てたのお姉ちゃん・・・うぅ・・・カーラさんには誰にも言わないでってお願いしたから・・・バレてないと思ってたのに」


「うん、私基本的に早起きだし・・・コルトのお店に転移する前にお腹空いたから調理場に食べ物を貰いに行って・・・その時に・・・」


「わーん!」


「でも幽霊かぁ・・・私は特に何も感じなかったけどなぁ」

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