第113話 Side - 15 - 55 - おじさんはいいひとだぞ -

Side - 15 - 55 - おじさんはいいひとだぞ -



最初は怖くて緊張したけど、王女殿下は優しい・・・、私の話をちゃんと聞いてくれて、今は足が痛む私の代わりにリーゼロッテ様がお城の中を歩き回ってる。


私は囮としてここに呼ばれたのに全然お仕事してない、これじゃ報酬はもらえないよね・・・、でも私に酷い事をした家族にお金が入らないのは・・・少し気分が良い・・・かも?。


「・・・それで、セシルちゃんはこれからどうしたい?、あなたの家族に復讐したい?」


「元々私は・・・雇ってもらえる年齢・・・15歳まであの家で耐えて、逃げ出そうと思っていました、どこかの街の小さなお店で雇ってもらって、お金を貯めて・・・自分一人の力で静かに暮らせたらいいなって・・・」


「・・・」


「でも、その夢もダメになっちゃった、・・・ぐすっ・・・もうこんな身体の私を誰も雇ってくれない・・・だからあのお家が潰れると私の帰る所・・・無くなるから困るの、・・・うぅ・・・、悔しいけど・・・このまま家に戻って、あの人たちにいじめられて・・・そのうちどこかに売られちゃうかも、でももういいの・・・夢も希望も・・・あの家族に抵抗して生きていく気力も・・・無くなっちゃったから・・・」


「ダメだよ!、そんな悲しいこと言わないで!、あなたを巻き込んだのは私たち王家なんだから責任取るよ」


「・・・いいです、ごめんなさい、・・・もういいんです」


「セシルちゃん・・・」


「戻ったのです!」


「あ、リゼちゃん、おかえり」


「お父様の執務室や陛下の私室、それから蔵書室を何度か往復してきたよ、陛下居たけど他の人達も居たから今の状況を説明できなかった・・・、それと早速向こうからお手紙もらったよ、明日指定の場所で話があるって、明日も私が行くからね・・・さて、私の隠れてるところに転移して足の治療しようか」


「・・・ごめんなさい、私、執事さんの指示に従って、決められたお部屋に戻らなきゃ・・・」


「え、ダメだよ、早く治療しないと本当に歩けなくなるよ」


「お願いですから、この件が終わるまで待って下さい、このお仕事、とても重要な事だって聞いてます、もし・・・私に少しでも悪い事をしたって思ってるなら、このお仕事が終わるまで待って下さい!、終わったら・・・治療お願いします・・・」


「・・・そこまで言われると・・・」


「早く治療した方がいいんだけど、・・・仕方ないのです・・・」


「じゃぁ・・・私はお部屋に戻ります、・・・失礼します」


「あ、待つのです、今日私がお城の中を歩き回ったから、廊下を歩くと尾行されて危ないと思う・・・お部屋は王族が使う離れだよね、今から転移で送ってあげるのです、・・・それなら私はまだリィンちゃんのお部屋に居るように見えるから」





「送って来たよ・・・斬られた足は家から道具を持ってきて簡単な治療したけど傷が深くて・・・、手術が必要かな」


「後で執事さんを呼んでこの事を説明しておくよ、リゼちゃんもお疲れ様、明日も対応お願いすると思うけど・・・気をつけてね」


「うん、明日またここに来るから」





うぅ・・・傷が痛い、お顔を斬られてからずっと熱っぽいし身体もだるい、・・・親切にしてくれた王女様にあんな事言っちゃった・・・不敬罪にはならないよね。


王女様の言葉に甘えても良かったのかな、・・・でも私みたいな下級貴族の娘・・・吹けば飛ぶようなゴミみたいな存在・・・ずっとお世話になるわけにもいかないだろうし、迷惑だよね。


それに・・・今まで心の中に閉じ込めて蓋をしていた暗い感情・・・、私はこんなに酷い目に遭ってるのに、王族と下級貴族の違いはあるけれど・・・王女様は綺麗なお部屋で、とても幸せそう・・・何で私だけ!、って思っちゃった。


このまま王女様とお話をしていたら絶対に口にしてはいけない事、「お前達のせいで私は!」って言ってしまいそうで・・・。


・・・これからの事も分からないし、自分でもどうしていいか分からない、怖くて・・・ここからすぐに逃げ出したい、・・・でもあの家に戻るのだけは絶対に嫌!、このお仕事が終われば馬車でまた家に戻される筈、・・・だから今夜お城から逃げる事にしたの。


私の事はみんなリーゼロッテ様だって思い込んでる、私に用意されてるお部屋から裏に回って少し歩けば出口だ、衛兵さんにちょっと出かけるって言えば・・・、王都は広いし街の中に紛れたら見つからないと思う。


それに私なんか居なくなっても誰も探さない、・・・家に戻って辛い思いをしながら死ぬより・・・この綺麗な王都のどこかで静かに死んでいく方がいいの。







「おや、リーゼロッテ様、どちらへ?」


「・・・少しお散歩」


「ですが・・・、王城周辺は治安が良いとは思いますが、この時間だと危ないのでは?」


「外の空気を吸ったら転移してすぐ戻るから・・・大丈夫だよ」


「そうですか、どうぞ・・・」


「ありがとう」


ギィ・・・バタン。





「・・・俺、男嫌いのリーゼロッテ嬢からお礼言われちゃったよ」


「リーゼロッテ嬢があんなに喋るとこ初めて見たな、いつもはただ睨んでくるだけなのに・・・」


「あぁ、ちゃんと会話になってるのも凄いな、機嫌が良かったんだろう・・・それに転移じゃなくてこんな裏口から出て散歩ってのも珍しいな・・・」








「出て行きます、ごめんなさい、お仕事の報酬は要りません、私に酷い事をした実家にも絶対に支払わないで下さい・・・か、この書き置きを残して居なくなったの?」


「はい、姫様から状況の説明があった後、すぐ部屋に向かいましたが、その時にはもう・・・」


「反逆者達を捕まえないといけないから騒ぎを大きく出来ないし・・・、お父様には?」


「陛下には例の件が片付くまで接触しない方がいいかと思い、まだ報告できておりません、相手に気付かれる可能性がありますから」


「はぁ・・・、すぐにでもあの子を探したいのに・・・仕方ないか、・・・私達の都合で巻き込んじゃった被害者だから早く何とかしたいんだけど」


「私もまさかそのような事になっているとは・・・少し顔色が悪かったので、体調でも悪いのか、それとも緊張しているのか・・・とは思いましたが、・・・気付かず申し訳ありません」


「仕方ないよ、私もまさかそんな事がって思ったもの」








「・・・うまく抜け出せた、よね・・・、今夜じゃなきゃ逃げ出す機会が無くなりそうだったし、よく分かんないけどお城から少し離れた路地裏?、食べ物のお店かな、美味しそうな匂いがする・・・お腹減ったな・・・、あぅ・・・足が痛い・・・うぅ、放っておくと歩けなくなるのかな・・・リーゼロッテ様は手術しないとって言ってたけど、私、手術費用なんて払えない・・・」






「んっ・・・空が少し明るい?、・・・寝ちゃってた?、・・・熱っぽくて身体がだるい、でももうちょっとお城から離れなきゃ」


「痛っ!、・・・足が腫れてる、昨日いっぱい歩いたから?、・・・痛くて動けない、・・・ブーツを脱いで・・・あぅ!、い・・・痛い・・・ぐすっ・・・ひっく・・・もう嫌だ・・・誰か・・・」


・・・・・・・ゴミかと思ったら・・・子供だ・・・・・家出か・・・・


・・・おい、・・・起きろ・・・・・・いくら王都でも・・・・・・路地裏で寝て・・・・・・







「・・・ここどこ?、薄暗くて嫌な匂い・・・」


「気が付いたか」


「ひぃっ・・・だ、誰!」


「お前さん、夜明け前の路地裏で倒れてた、あのままじゃぁ酔っ払いや悪い男に連れてかれて酷い目に遭うんじゃないかって思ってな・・・ここに運んで来た」


「・・・その言い方だと・・・おじさんが悪い人じゃないみたいに聞こえるけど・・・」


くぅー、きゅるる・・・・


「おじさんはいい人だぞ、金は無ぇがな、・・・腹が減ってるのか?、・・・ほら食え」


「・・・パン?・・・硬い・・・カビが生えてる」


「贅沢言うな、俺の昼飯恵んでやったのに・・・ここじゃこれくらいみんな普通に食ってる、そいつは一番カビの少ないやつだぞ、これが全体に広がったら腹を壊す、覚えとけ」


「・・・ここは?」


「王都の地下に広がる下水道・・・ここは俺の家だ、勝手に歩き回るなよ・・・この辺は迷路みたいになってるから迷うと厄介だ」


「・・・」


「水も飲むか?」


「濁ってる・・・」


「下水じゃねぇから安心しな」


「・・・ごくごく」


「雨水だ、運が悪けりゃ下痢する」


「ぶふぉっ!・・・げふっ!、えふっ!・・・」


「ここには綺麗な水なんて無い、我慢しろ、どうしても飲みたきゃ中央公園の噴水のやつを飲め・・・それから動けるなら早く家に帰れ、出口まで案内してやる」


「・・・無い」


「あ?」


「家は無いの、それから足を斬られて歩けない、生きてるのが嫌になって、綺麗な王都で静かに死のうと思ってたの、・・・ぐすっ・・・」


「・・・面倒な奴を拾っちまったな、元のところに捨てて来るか」


「うぅ・・・ひっく・・・ぐす・・・うぇぇぇ・・・」


「あー、待て!、泣くな、鼻水垂らすなよ汚ねぇな!、冗談だ、とりあえず動けるようになるまで休んでろ、食料は調達して来てやる、足の治療は・・・俺は医者じゃねぇから無理だ、上に行って誰かに助けを求めるか?」


「・・・」

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