第106話 Side - 15 - 50 - あべるさん よん -

Side - 15 - 50 - あべるさん よん -



翌日から客間に常時メイドが2人待機するようになった。


「おはよう、じゃぁ出かけてくる・・・転移」


「あ!、お待ちくださ・・・」





「戻ったよ」


「勝手に出て行かれては困ります!」


「ずっとこの部屋に居るのは暇だ、見ろこの銀貨、今日の薬草採集依頼、品質ランク最高水準だってさ、それに大量に採れたからいい稼ぎになった、こりゃ薬屋やってるより儲かるな、私が留守の間街にある店を閉めてるから収入が無い、食費も馬鹿にならない、貴族様は金がどこかから湧いてくるのだろうが私は違う、文句があるなら早く報酬を寄越せ、そうすればここに用は無いからすぐに出て行くぞ」


「・・・お食事はこちらで用意しております」


「あぁ、毎日出てくる食うと身体が痺れて動けなくなるやつかな」


「なっ!、なぜそれを!、いえ、そうじゃなくて・・・あの」


「私は薬師だ、薬はもちろん毒にも詳しい、私は貧しい孤児だが馬鹿ではないぞ」


「・・・」


「それに天井裏の2人の男女、時々交代しているようだが夕方の担当の・・・今上に居る2人な、いちゃいちゃするのも程々にしておかないと王様に怒られるんじゃないかな」


ガタッ!


「おっと、余計なことを言ったかな、この後も無事であれば2人ともお幸せに、応援してるよ」


「・・・」


「で、私はいつまでここに居ればいいのかな?、報酬も貰えないし、いい加減帰りたいのだが」






「いよいよ王様とご対面か、ここに来てから何日経った?、ハンターギルドの依頼で忙しかったから数えてないな」


「25日でございます」


「なんだ、そんなに経ってたか、きっちり数えてて偉いなメイド3号さん、まぁいい、ようやくこんな窮屈な場所から出て行ける」


「・・・」


そして私は謁見の間だと言う部屋の扉の前に立った。


ギィィ・・・


部屋の奥には立派な椅子、両サイドには騎士が並びその後ろには席があって沢山の偉そうな服を着た奴らが座ってる。


「入っていいのか?」


「どうぞお進み下さい、そして前方に立っている騎士の横で膝をついて挨拶を」


「分かったよ」


私は言われた通り前に進み、そこで跪いて事前に教えられた通りの礼をした。


「顔を上げろ」


王様が私に言った、上げていいのか?、良いよな・・・。


顔を上げ立ち上がり王様の顔を見た、いかつい髭の・・・そうだな30歳半ばってところか、筋肉質で腹筋が割れて胸筋がパンパンだ、強そうだな。


「此度の我が国の危機に際し、敵兵の殲滅大義であった、褒美を取らす」


隣の大臣っぽい初老の男が文章を読み上げた。


「アベル・セーメインの功績に対し、騎士の爵位と王都に土地屋敷、報奨金として金貨5000枚を与えるものとする・・・」


「発言いいかな」


ざわ・・・


おぅ、周りの偉そうな奴らがざわついた、発言しちゃいけなかったか・・・。


「許す」


王様が低い声で許可してくれた。


「私は卑しく貧しい孤児だから礼儀作法がなってないのは許して欲しい、で、褒賞だが爵位はいらないし騎士にもなる気はない、王都に土地屋敷も必要ない、金だけでいい」


ざわざわ!


なんと不敬な!


「分かった、では爵位と土地屋敷分も金貨としよう、金貨8000枚を与えるものとする」


「ありがたく頂戴します」


「我が国の危機を救ったのだ、安いものだ、して、アベルよ」


「何でしょう」


「我が娘を妊娠させた事への責任をとってもらおうか?」


ざわ・・・


妊娠?、娘とは・・・第二王女殿下か?。


何という・・・。


ケダモノめ。


「仰っている意味が分からないのですが」


「お前は迎えにやった我が娘に手を出した、身体を汚し妊娠させたであろう!」


「妊娠されたのは確かなのですか?」


「間違いない、王宮の医師による検査で妊娠している事が確認された、この事実は絶対だ!、よって不本意だが我が娘の婿として王宮に入りこの国のために生涯尽くすと誓うのだ!」


「王女殿下のお相手は私ではありません」


「何を言うか!、共に行動していたメイドも証言しているぞ、馬車の中で身体を触り、宿屋で部屋に連れ込んだと!、信頼できるメイドだ、間違いない!」


「ありえない」


「まだそのような事を申すか!」


「いや、だって私は女性です、女性同士でどうやって子を作るのですか?、誰か他の男性と間違えているのでは?」


「・・・何?」


あれ、騒がしかった部屋の中が静かになったぞ・・・私は何かマズい事を言ったのか?。


「う・・・嘘を吐くでない!、お前が女だと!」


「はぁ・・・では陛下の目の前で粗末なものをお見せする事をお許し下さい」


私はズボンのベルトを外し・・・サイズが大きいからストン・・・って落ちたな、下着を下ろしシャツも胸まで持ち上げた、そして下着が足元にあるから転けそうになったが横に並んでいる偉そうな奴らにも見えるように左右にも向いて見せた。


幼い頃に毎日辱められていたから男に裸を見られるのは平気だと思っていたが・・・これだけ大勢の前だと恥ずかしいなおい!。


「・・・」


「・・・」


「これで信じていただけましたか?、王女殿下のお腹の子は私の子ではありません・・・王女殿下におかれましては無事に元気なお子様をお産みになられる事をお祈りしております」


下着を上げてズボンを履いた・・・。


・・・どうしたんだみんな、葬式みたいな雰囲気になってるが・・・もう帰っていいのか・・・。


「では私はこれで、あぁ、金貨はハンターギルドの口座に入れたいのですが」









「んっ・・・よく寝たなぁ・・・ここは今日で一旦チェックアウトして・・・計画がうまく行かなかったらもう1泊かな」


昔の事を考えて寝たら夢に出てきたな、あの腐った国・・・私を利用しようとした馬鹿な国・・・。


私は身支度を整え「雪藤ちゃん」の姿になった、服は昨日着ていたものと同じだ、ベッドを軽く整え備品のタオル類をきちんと吊るし、空き缶や食べ物のゴミを一つにまとめて部屋を後にした、私はこう見えて几帳面なのだ、ホテルをチェックアウトした後コンビニの裏へ。


「・・・幻術」


きちんとした身なりだった「雪藤ちゃん」の姿を変える、この姿でホテルをチェックアウトしたら受付で声をかけられそうだからやめた、化粧は落として素顔、服をヨレヨレに、髪はボサボサ、目は泣き腫らして赤く、顔も少し薄汚れた感じに・・・体臭は少し煙っぽく・・・靴はサンダルに・・・よし完璧!。


「・・・転移」





「うぅ・・・ぐすっ・・・ふぇぇ・・・」


「あ、おはよー雪藤ちゃん、今日遅かったね・・・って!どうしたのその格好!、泣いてるし!」


「あぅ・・・ひっく・・・私のお家・・・借りてたアパート、昨日燃えちゃったぁ・・・お金も、通帳も・・・お洋服も・・・車も・・・わーん!」


「えぇぇ!、大変じゃないの!、そんな事になってたんなら会社休んでもよかったのに・・・」


「行くところなくて・・・私、両親いないし・・・ぐす・・・親戚にも嫌われてて・・・昨日お家で寝てたらね・・・お隣から火が出て・・・脱ぎ散らかした昨日の服だけ持って逃げたの・・・全焼だったの・・・夜寝るとこもお金もなくて・・・朝まで公園で寝てたの、それでね・・・知ってるところだと会社が一番近かったから・・・夜が明けてすぐ歩いてここまで・・・」


「わぁぁ!、ダメだよ女の子なんだからそんな所で寝ちゃ!、危ないって!、おーい!、課長ぉ!!、雪藤ちゃんが大変だ!」





「で、これからどうするの、僕に何かできる事ある?」


「ぐすっ・・・会社のお電話貸して欲しいの、・・・それと電話番号調べるからパソコン・・・昨日・・・保険会社や、大家さんに電話しようと思ったら・・・スマホも燃えちゃってて・・・ポケットに入ってる38円が・・・今の私の・・・全財産・・・ふぇぇ・・・」


「あー、総務課には連絡しておくから使っていいよ、今日泊まるところは?、お金貸そうか?」


「・・・とりあえず大家さんに電話するの・・・」





「どうだった?」


「・・・保険が下りるの3日後、大家さんは自分でなんとかしろって・・・ひどいの・・・、ひっく・・・あぅ・・・カードも無いからお金下ろせないよぅ・・・とりあえず今日から3日・・・お休みしていいですか?・・・今夜は・・・昨日寝た公園でまたお泊まりするの・・・」


「ダメでござる!、じゃなかったダメだよ、お金引き出せるようになるまでうちに泊まって!、妻と息子が居るから嫌じゃなければだけど・・・、妻には連絡入れておくから」


「いいの・・・ですか?」


「困ったときはお互い様だよ、それにこの課の他の人、独身だったり単身赴任だったり・・・そんな所には泊められないから、家族が居る一軒家で部屋も多い僕の家が一番いいと思う」


「ありがとう・・・ございます・・・ぐす・・・」





「はい、タクシー代、足りると思うけど足りなかったら家に妻が居るから払ってもらってね」


「奥様・・・お仕事じゃ・・・」


「今はお店を途中で抜けて家に戻ってもらってる、この時間は暇だから店長の許可が出たって」


「ご迷惑を・・・おかけします・・・」





バタン!ブロロロ・・・


「・・・ここがあの女のハウスね・・・フフッ・・・このセリフ、一度言って見たかったんだよねー」


ピンポーン


「はーい、あ、雪藤さんだね、うちの旦那から聞いてるよ、大変だったね!、さ、入って入って!」


「あの・・・お世話になります・・・」





「この部屋使いな、家族は私と旦那と息子とむすめ・・・いや息子の3人だけど、・・・実はうちの息子顔が怖いんだ、でも悪いやつじゃないから安心して、あまり顔見せるなって言っておくから」


「あの、知ってます、ケイオスDGで歌ってる人ですよね・・・CD持ってます・・・燃えちゃったけど・・・ぐす・・・」


「おっ、知ってるのか、息子が聞いたら喜ぶよ、あんなの聴く女の子居るんだね!、じゃぁ私は店に戻んなきゃいけないから、夕方までには戻るよ、旦那や息子が戻るのは夜になるだろうな、だから留守番お願いしていいかい、あ、2階は凄い散らかってるから上がらないで欲しい」


「・・・はい、わかりました」


「あ、テレビも見ていいし、シャワーも使っていいからね、着替えは風呂場に置いておくから・・・娘のだけどいいかな」


「・・・はい、ありがとうございます」





バタン・・・ガチャ


ブォン!ブォン!ブォン!、ドゥルルルルル!、ブロロロロ!、ブォォォォォ・・・・





「さて潜入成功・・・、あぁ、良い人達だぁ・・・騙してるの心が痛むなぁ・・・」


おや、私が来るからどこかに逃げてるかと思えば・・・2階に居るね、あの子のお部屋かな、・・・魔法陣を逆に辿って捕まえに行く手間が省けたね・・・おそらく向こうも私に気付いてるだろう。


・・・この座敷と2階に魔法陣・・・か、転移先に固定の魔法陣を置くと、何も置かない場所に転移するより魔力の消費が少なくて済む・・・よく出来てるね、・・・あ、少し改造してるなぁ、あの子のオリジナルかな。


さて、可哀想だが魔力と魔法陣をしばらく封じさせてもらおう・・・。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」


範囲指定は・・・このくらいかな・・・。


「・・・凍結!」


キィ・・・ン・・・




ガタン!・・・ドタドタ・・・


「あ、怖がらせちゃったね、さてご挨拶に行きますか、待っててねリーゼロッテちゃん・・・」

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