第96話 Side - 302 - 9 - れっくれす・しぇーる -

Side - 302 - 9 - れっくれす・しぇーる -



「ふぅ・・・怒られた怒られた・・・ハハハ、「追って沙汰があるまで謹慎」だってさ」


「・・・レックレス様ぁ、私、どうしても納得できません、・・・ひっく・・・ぐす・・・」


「俺も王様って柄じゃ無いしな、自分で言うのもアレだが俺は馬鹿だ、リリアも知ってるだろ、妹は面倒くさがりで泣き虫だが頭は良い、良い王様になれるだろう、俺は嫌われてるようだがな」


「それは・・・レックレス様があえて道化を演じていらっしゃるから・・・」


「おっとそこまで、どこで誰が聞いてるか分からんからな」


「申し訳ありません・・・」


「さて、向こうの家に行って話をして来ようかな、リリアも来るか?」


「出かける?・・・陛下から謹慎と言われてるではありませんか」


「そんなのバレなきゃ良いんだよ、もう今日の仕事終わったんだろ」


「はい、ですが・・・」


「今回の婚約破棄騒動の詳しい理由、知りたいんだろ」


「・・・」


「いいから行くぞ、これは奴から預かってる携帯型転移魔法陣だ、この上に立て」


「・・・え、どこに行かれるのでしょう?」


「行ってからのお楽しみだ、ほい、転移!」







「ひぃっ・・・ここは・・・」


「・・・ようこそシェルダン家へ、可愛いメイドさん、それから殿下・・・」


「いやぁ、痛かったぞウルフ殿!、口の中が切れてた」


「殿下が娘の事をあまりにも悪く言うものでね、つい力が入ったのだよ、あれだけやれば誰も演技だとは思うまい」


「はいはい、俺が頼んだのだから仕方ないか、・・・これで一件落着・・・となれば良いがな」


「長かったですな・・・」


「エッタちゃんは?」


「部屋に閉じこもってる、男性に押さえつけられて怖かったのだろう」


「悪い事をしたな、だが彼女は演技が下手そうだ、バレるとまずい、それに当事者だと知られたら心に傷が付くだろう、優しい子だからね」


「そのメイドさんは?、・・・確か殿下といつも一緒にいる子だね」


「あぁ、俺が幼い頃から仕えてくれてるリリア・・・俺にとって姉のような人だ、今回のことが知りたそうだったから連れて来た」


「前にも確認したが・・・本当によろしいので?、一人で背負われなくとも良いのでは?」


「あぁ、気にしないでくれ、堅苦しい王族の生活は性に合わない、これで俺は自由だ、妹はこれから大変だろうがね・・・」


「これで王妃様の周りの連中がどう動くかだな」


「・・・あの、口を挟んで申し訳ないのですが、・・・全く状況が理解できません」


「あぁ、悪い悪い、僕から軽く説明しよう、ウルフ殿少し時間いいかな」


「えぇ、かまいませんよ、私も状況を整理したいので」


「リリア、これから話す事は極秘事項だ、他言無用だよ」


「はい・・・」


「まずどこから話そうか、そもそもの始まりはシェルダンの血筋が色々な所から狙われている・・・って事、白銀の大魔導士様をはじめ、そのご両親、弟、叔父、そして子孫も、これだけ不老に到達する程の膨大な魔力量を持つ人間を排出した貴族家はここシェルダン家だけだ、それを見た他の貴族連中はどう思う?、この家系に不老不死の秘密があるのでは無いか・・・そう噂し始めた、もちろんこれはデマで、白銀の大魔導士様が開発した国家機密の秘術によるものだと王家からも公表されている、ここまではリリアも知ってるよね」


「はい、この国について最初に教わる事ですよね」


「で、王家から公表された事実を信じない馬鹿どもに何度も子供を誘拐されかけたり、婚姻でその血を手に入れようとしたり・・・そんな事が多発してシェルダンは警戒を強めた、血族を厳格に管理し、子供を作り過ぎず、無闇に婚姻を結んで血族を外に出さない、・・・血が濃くなるからある程度信頼できる貴族家とは極秘で縁を結んだり、赤ん坊の頃から厳重に警備して誘拐を防ぐ・・・他にも色々と対策をした結果、どこの貴族家も喉から手が出るほど欲しがる価値のある血筋、それなのに厳重に守られて手が出せない、・・・そんなイライラする状態が続いて今に至っている」


「そしてシェルダン家に手が出せないのなら王家はどうだろう、・・・そう考える奴らが出てきた、この大陸を中心に活動する犯罪組織、主に子供の誘拐と人身売買で金を稼いでいる奴らがシェルダン家の血筋が欲しい貴族家と手を組んで動き出した」


「俺の母親・・・王妃だな、彼女は貴族でも何でもない、どこの誰かも分からない、その犯罪組織によって何処かから誘拐され、そして奴らに育てられた工作員だ」


「ええええ!、王妃様が!、まさか・・・そんな」


「正確には「元」工作員だね、組織と手を組んだ貴族家の養子となりその令嬢として社交界デビュー、親父の好みの容姿、好みの振る舞いをする女性を演じ、近付き、そして気に入られて結婚した、だけど親父と一緒に暮らすうちに本気で恋をして、本当の夫婦になったんだよ・・・親父は王族にしては穏やかで優しいからな」


「奴らの計画はこうだ、親父と結婚して王子あるいは王女を産み、そのどちらかとシェルダン家の子供を結婚させる、その嫁か婿を誘拐してもいいし、あるいは結婚して子を産ませて・・・偽物として用意した子供とすり替える・・・、王妃と、城に潜入させた工作員の仲間と協力すれば、シェルダンに直接手を出すよりはるかに簡単に赤ん坊を手に入れられるだろうね」


「そんな・・・酷い」


「随分と気の長い話だが、赤ん坊をすり替える手はよく考えられていると思う、気付かれないしシェルダンからの報復も無い、それにこんな事をされたら知らないうちに王家と何の関係もない血筋の人間が王になるからね、脅迫材料にもなるし、他国に情報を売れば、このローゼリアはそんな事をされても気付かない間抜けな国って笑いものになる、当然王も敬われないし、国が崩壊するかも知れない、事実俺も半分は貴族じゃなくて平民の血が流れている可能性が高い」


「・・・」


「俺の母親は悩んだ、毎晩苦しんで泣いていた、指示通りに何とか自分の息子とシェルダンの娘を国王陛下の努力で婚約させた、次はその2人の子を工作員と協力して別人とすり替える・・・だがその工作員のメイドとのやり取りを俺に聞かれた、13歳の時だったかな、俺は母親を問い詰めた、泣きながらごめんなさい、命を狙われるかも知れないけれどもう指示には従わない、あの人には・・・親父だな・・・お願いだから言わないでって・・・」


「俺から見ても両親は仲のいい夫婦だ、この関係を壊すのは俺だってしたくない、だから親父には黙っていた、その代わりシェルダンの家に相談した、ここも当事者だからな、俺の話を聞いたウルフ殿は協力を約束してくれた、娘には秘密にして・・・だけどな、・・・そもそもあまりにも王家が婚約させろってうるさいから仮に俺と婚約させて何かの理由をつけて破棄しようと考えていたらしい」


「俺はそれから馬鹿なフリをして・・・まぁ色々と問題を起こした、愚かな王子、こんな奴が次の国王で大丈夫か・・・散々言われたし、やらかし過ぎて仲が良かった妹にも見限られた、そんな日々が3年続いて俺が16歳になった時にはバカ王子が定着した」


「これでシェルダンも婚約破棄を言い出しやすくなるだろう・・・そう思ってた矢先にフィリスが俺に擦り寄って来た、元々失礼で下品な女だったが俺は「これだ!」って思ったね、俺とフィリスが真実の愛とやらを見つけてヘンリエッタに婚約破棄を突き付ける、これなら俺の母親は組織を裏切る必要がない、欲しかったシェルダンの嫁がどこかの下級貴族の娘にすり替わるんだから、もう用済みだ、しかもバカ王子の俺がやらかしたんだから母親には全く非が無い、あとは組織に消されないように注意していればいい、組織が母親の素性をばらそうとしてもシェルダンの力で握り潰せばいいしな、そして計画を変更したんだが、まさかフィリスがあんなに性格が悪くてヘンリエッタに冤罪を被せるとは思ってなかったな」


「レックレス様が13歳の頃を境に急に荒れ初めたのはそんな理由があったのですね、私としては・・・その、あの年頃の男の子はそういった事をするものかな・・・と、「フフフ、俺の左腕に封印されたドラゴンが・・・」とか「ククク、我は闇の支配者・・・」ってよくおっしゃっていましたから」


「いや、リリア!、そこまで言わなくていいから!、ウルフ殿、何を笑っておられるのか!」


「話を戻そう、エッタちゃんは確か好きな男がいるんだよな、執事の・・・名前は忘れたが・・・、俺と婚約させる時に「王家からの求婚を断って貴族では無い執事と婚約するとは何事か!」って親父が詰め寄ったらしいな、これでエッタちゃんも好きな男と幸せに暮らせるだろう、妹はかわいそうだが女王になってもらおうかな、親父とお袋はおそらく今回の責任を取って王位を退くだろう、シェルダン経由で統一国王陛下にもこの話が伝わっている、激怒して親父に「責任を取れ!」って言う事になってるしシェルダンの方もウルフ殿に「大事な娘にお前の息子はなんて事してくれたんだゴラァ!」ってやってくれって頼んである、ハハハ、親父も気の毒にな!、まぁこれだけ大きな陰謀が動いてるのに気付かないのも間抜けなんだが・・・」


「・・・悪かったな間抜けで」


「ぬふぉあっ!、親父!、・・・とお袋?、何でこんなところに居るんだよ」


親父とお袋が隠し扉から出てきた!、今の話全部聞かれたのか?、そんなの聞いてないぞ!。


「私が呼んだんだよ、先に王妃様には了承をもらってある、「全てを陛下に話して、それでも2人の愛は変わらない」そうだ、殿下にだけ全て背負わせるのはどう考えても理不尽だ、そもそもこれから城にいる組織の連中がどう動くか分からん状態で陛下が知らないのはまずいと判断した、あの城は危険だから陛下と王妃様はギャラン・ローゼリアの城でしばらく過ごしてもらおうと統一国王陛下はおっしゃっておられたな」


「そうか・・・」


「レックレス・・・その・・・酷く叱って悪かったな、経緯は全部シェルダン殿から聞いた・・・それから・・・ありがとう」


「レックレスちゃん・・・お母様からもお礼を言うわ、・・・今まで本当にありがとう、ずっと私を庇ってくれてたのね・・・ぐす・・・」


「あぁ、2人の仲のいい所あれだけ見せつけられたら庇いたくもなるよ、後で相談しようと思ってたんだが、・・・俺は王族の籍を抜けてハンターになろうと思う、心配なのは妹だが、・・・まぁあいつは賢いから何とかなるだろう、ここまで俺とウルフ殿でやったんだ、後のことは頼んでいいか?」


「分かった、組織の奴らは城から一人たりとも逃がさんつもりだ、それから・・・リリアさん、もし嫌なら断ってもらってもいいのだが、しばらく息子と一緒に行動してもらえないか、こいつを一人で野に放つのは心配でな、城に勤めている時の3倍の給料を出す、出張という形で息子の監視と世話を頼めないか」


「はい、陛下、喜んで!」


「お、リリア、いいのかよ、俺なんかに付いて来たら更に婚期が遅れるぞ」


「大丈夫ですよー、婚期逃したら責任とってレックレス様にもらってもらいますから!」


「あらあら、リリアちゃん、息子をよろしくね・・・」

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