第92話 Side - 15 - 40 - まてつのゆびわ -

Side - 15 - 40 - まてつのゆびわ -



「わぁ、・・・ここがコルトの街?、リゼちゃんのお部屋?」


「うんそうだよ、僕の家」


「あ、そっか、リゼちゃんここでは男の子・・・のフリしてるんだよね」


「そう、だからリィンちゃんも話を合わせてね、護衛のシャルロットさんに紹介するからリビングに行こう」


私達は今、日本での長期滞在を終えてコルトの街にある私のお家に転移して来ました、16日ほど日本に居たけど、こっちの世界には日本に転移したすぐ後の時間に戻って来たから時間が進んでなくて、街の人達は昨日まで私がこのお家の前を歩いてたのを覚えてる筈なのです、慣れない時にはタダーノのおじさんに「お久しぶりです」って挨拶して「何だ坊主、昨日もここで飯食ってたじゃないか」って突っ込まれたなぁ・・・。


リビングに入るとシャルロットさんがソファに寝転がって小魚を干したやつをボリボリ食べながら本を読んでいます。


「あ、リゼルくんお帰りなさいっす!、あれ、そっちの人は・・・うひゃぁぁぁ!、何で王女様誘拐して来てるんすかぁ!」


「・・・落ち着いてシャルロットさん、ちゃんと陛下の許可をもらって連れて来てるから、・・・大丈夫だよ、それに・・・ここでは変装してもらうから」


「大丈夫じゃないっす!、王女様に何かあったら私責任取れないっす!、ってか護衛の人は?」


「・・・いるじゃん、・・・僕の目の前に、・・・シャルロットさんが」


「・・・い」


「い?」


「いやぁぁぁぁ!」






「落ち着いた?」


「柄にもなく取り乱しちゃいました、王女殿下にもお恥ずかしいところを見せちゃったっすね」


「いやリゼちゃん、突然何も言わないで私を連れて来たらそりゃ驚くよ、何で事前に言ってあげてなかったの?」


「リィンちゃん、ここでは僕はリゼルだよ・・・シャルロットさんを信用してないわけじゃないんだけどね、陛下から身内も含めて旅行の行き先は誰にも言うな、どこで誰の耳や目があるかわからないから・・・って言われてたから、今リィンちゃんがここに居る事を知ってるのは僕とシャルロットさんだけだよ、もちろん陛下も知らないからね」


「・・・お父様が?」


「うん、王城内のどこに敵の密偵がいるか分からない状態らしいの、馬車で王城を出て行ったりしたら絶対後を尾けられるから僕の転移魔法陣は他人に行き先を知られないって事においては最適なの」


「分かりましたっす、もう覚悟を決めて護衛するっす、王女殿下、今日から3日間、ブルナカノン家長女、シャルロット・ブルナカノンが命を賭けてお守りするっす!」


シャルロットさんがリィンちゃんの前に跪いて臣下の礼をしました、わぁ・・・いつものだらしない・・・じゃなかったいい加減な・・・でもないか・・・のんびりしたシャルロットさんとは思えないくらいかっこいいのです。


「それでね・・・、うちのベッドじゃ狭いでしょ、僕のベッドで一緒に寝るならかなり窮屈で、・・・2人で抱き合って密着しないとダメだから、・・・トシの宿屋でお部屋をとってそこに泊まろうと思うの」


「私は別にそれでもいいって言ったんだけどねー、リゼルくんが同じお布団に人が居ると寝られないって言うから」


「え?、トゥーリック様の、・・・宿屋」


あ、シャルロットさんが顔を赤くしてもじもじしてるのです、これ絶対リックさんの事考えてる乙女の顔なのです、・・・お互い好意を持ってる人同士いちゃつくのはいいけどちゃんとお仕事しないと本当にお父様に怒られちゃうよ・・・。


「・・・じゃぁちょっと早いけど、お昼ご飯をタダーノで食べて、多分そこにトシも居るだろうから今日の夜から3泊分のお部屋とってもらおうか、リィンちゃんは変装しようね」




そして私達はタダーノの前に来ました、私はいつものリゼルくんの服、シャルロットさんは普段着・・・だけどお洋服とお化粧にすっごい気合が入ってる!、そしてリィンちゃんはお母さんの服を借りたクソダサ変装仕様、バンドのみんなに大不評だったやつだね、これなら誰が見ても王女様だと気付かれないのです!。


「わぁ・・・可愛いレストラン!、それにすぐ裏が海だぁ!、すっごく綺麗!、リゼルくん、あそこ!、あのテラス席で海を見ながら食べたい!」


「はいはい分かったよー、ここ僕達がいつもお食事してるところなの、すっごく美味しいんだよ!」


そんな事を話してるとマスターのタダーノさんが今日のおすすめを書いた看板を持ってお店から出て来ました。


「おう、いらっしゃい!、今日はいつもより早いな、おや、そちらのお嬢ちゃんは?」


「あ、僕のお友達のリィンちゃん、・・・今日から3日間この街で遊ぶの、・・・うちは狭いからトシに頼んで宿屋のお部屋とって3人で泊まろうと思って・・・トシは居る?」


「あぁ居るぞ、何食うか決まったらまた呼んでくれ」


中に入るとテラス席でトシのクソ野郎が海を眺めていました。


「トシの兄貴!」


「おー、リゼルか、ってなんだよその妙な服着た女は!」


「僕のお友達のリィンちゃん、休暇で3日くらいこの街で遊ぶの、それにこの服は妙じゃないのです!、とってもファンキーでかっこいいのです!・・・で、うちのベッド狭いから僕とシャルロットさん、それからリィンちゃんの3人で兄貴のところの宿屋に泊まろうかなって思って」


「ふぁんき・・・何だって?、まぁいいや・・・、この時期はほとんど客がいないから大丈夫だ、今から飯か、じゃぁ俺は宿屋行って親父に部屋用意してもらって来てやるよ、3日だったら今日から2泊だな、宿で出す夕飯が付けられるがどうする」


「・・・念の為に今晩入れて3泊、3人部屋ね、4日目に帰ろうと思うの、・・・それから宿屋の夕食は食べた事なかったから付けてもらおうかな、そんな感じでよろしく兄貴!」


「おぅ!」


トシがレストランから出て行きました。


「お夕食、・・・トゥーリック様の手作りご飯・・・しゅてき・・・」


ポンコツになってるシャルロットさんを横目で見ながらリィンちゃんが言いました。


「ねぇ、リゼルくん、あの男の子の事、兄貴って・・・」


「今晩から泊まる旅館の息子だよ、僕は不本意ながらあのトシのクソ野郎の弟分なの、とってもムカつく奴だけど悪い子じゃないから」


「ふーん、(ニヤニヤ)」


「何?、リィンちゃん、ニヤニヤしちゃって」


「別にぃー、あの男嫌いのリゼルくんが意外だなって思っただけ」


「トシくらいの年齢の子ならまだ許容範囲内なの、それより大きくなったらちょっと怖いかな」


「そう・・・」


「それより、リィンちゃん何食べる?、ここ何でも美味しいんだよ、おすすめはね・・・」


「決まったか?、今日は鶏肉のいいのが入ってる、貝はうちに卸してる漁師が昨日から休んでてな、明日には大量に入るだろう」


「じゃぁ・・・これとこれ、リインちゃんにこれでしょ、・・・それからシャルロットさんは・・・」





「わー、何これ美味し過ぎる!、リゼルくん毎日こんなの食べてるにょ羨ましいぞこら!」


「リィンちゃん感動で言葉がおかしくなってるよ、美味しいでしょ、一番最初に町長さんが紹介してくれた所なんだぁ、他のお店も一通り行って食べたけどここが一番美味しいの」


今日のお昼は鶏肉と野菜を交互に串に刺してハーブとニンニクで味付けして焼いたやつとお魚を蒸して甘しょっぱいソースをかけたもの、ご飯をトマトソースで絡めたリゾット・・・本当に美味しいのです!、最初は綺麗な盛り付けに目を輝かせていたリィンちゃんも今は夢中でご飯を貪ってるし、・・・あ、勢い付き過ぎて咽せた、・・・こらこら仮にもお姫様なんだからもっと落ち着いて食べようね。


「おっ、嬉しい事言ってくれるじゃねぇか、それにいい食べっぷりだ、おじさん嬉しいぞ、デザートのアイスはサービスだ!」


「わーい、おじさん優しい!」


マスターはリィンちゃんに喜んでもらえて嬉しいのか終始ご機嫌です、そりゃ可愛い女の子に褒められたら悪い気はしないのです!、私の横の席ではシャルロットさんが私達2人が頼んだのと同じくらいの量を「はぁ、トゥーリック様ぁ・・・」って言いながら黙々と食べています、恋をする乙女でも腹は減るのか、いつもと変わらない良い食べっぷり・・・。


「おーい、部屋の予約が出来たから夕方以降はいつでも来て良いぞ、・・・ってめっちゃ食ってるし!」


トシが宿屋から戻って来ました、うーん、調子に乗っていっぱい頼んでいっぱい食べたのです、・・・しかも完食なのが恐ろしい、・・・これは太るかも・・・そう思いつつリゾットを綺麗に平らげてマスターのサービスしてくれたアイスに手を伸ばしているリィンちゃんに。


「リィンちゃん、夕方まで時間あるから街を一回りしようか、ちょっと運動しないと太っちゃう・・・」


そう言った瞬間、アイスに手を伸ばしていたリィンちゃんの動きがピタッと止まって、・・・あ、・・・伸ばした手がフルフルと震えてるのです!


「え、私・・・太った?」


「いや大丈夫だよ、リィンちゃん細いし、・・・マスターのサービスだからアイス遠慮なく食べちゃいなよ、アイス作りはマスターの趣味でね、丘の方で放牧してる牛さんの新鮮なお乳を卸してもらってそれを加工してアイスにしてるの、この街の人達にも大人気なんだよ、午前中に来ないと売り切れちゃうの」


「そう・・・じゃぁ遠慮なく・・・やばい!、これも美味しい!、リゼルくんやばいよ!」


「美味しいでしょ、僕も初めて食べた時はびっくりしたなぁ、・・・王都の一等地にあるお店のより美味しいんだから」


「ふー、お腹いっぱい!、幸せすぎるよリゼルくん!、これがまだ明日も明後日も食べられるんだぁ・・・」


「今日はまだ貝を使った料理が出て来てないからね、貝が入った料理はもっと凄いよ、これのおかげで僕、街の住民手続きを決意したくらい美味しいの!」


「わ、・・・楽しみ過ぎる」


「ははは、気に入ってくれて嬉しいよ、そういえば坊主がこの前連れてきてクックの腕を手術してくれた博士とやらもここが気に入ったのか、あれから2回くらい来たぞ、こんな田舎だから来るのも大変だろうに、どこに住んでるんだ?」


「あー、博士もここのお料理気に入っちゃったんだ、・・・普段は王都に住んでるんだけど、・・・彼って本業は研究者で国中いろんな所に行ってるから、たまたま近くに来てて寄ったんじゃないかなぁ・・・」


苦しいけど上手く誤魔化せたのです、・・・マスターは「そうかそうか、気に入ってくれたんなら嬉しいぜ」って言いながら私達のお勘定を済ませて厨房の方に戻って行きました。


それから私達はお店を出て街の中心地へ、・・・この街は海に向かってなだらかな斜面になってるから坂が多くて食後の良い運動になるのです!。


「わぁ、屋台がいっぱい!」


「ここは漁港が2つあってね、そこで働く人達のために屋台が朝早くから遅くまで毎日出てるんだぁ、日によって屋台は違うけど、どこも安くて美味しいの、僕達はお昼はタダーノで食べるけど夕飯や朝食はここでシャルロットさんが買って来てくれたやつ食べる事が多いかな」


「そうなんだ、どこも美味しそうな匂い、それに食べ物だけじゃなくて雑貨を売ってる店もあるんだね」


「良いものもあれば怪しいのもあるけどね、海の底・・・網に引っかかって出て来たやつを売ってるお店もあるよ、沈んだ船に積んでた宝石を売ってた事もあったかな」


「これは、指輪?、魔鉄を使ったやつ・・・だって!」


「わぁ、珍しいな、魔鉄って古代遺跡からしか出ないやつだね、加工も難しいって博士が言ってたよ、そうだリィンちゃんこれ2人で初めて旅行した記念にお金出し合って買わない?、ちょうど2つあるし」


「うん、買おう!、一緒に旅行した記念だね!」


私と目が合った屋台のおじさんが言いました。


「お前さんタダーノの店でよく飯食ってる坊主だな、ちょっと変わった格好してるが可愛い彼女とデートか、そこは男らしく彼女に買ってやんな、こいつは海の底に沈んでたやつを俺が回収したんだ、2人の幸せを祈って少しおまけしてやるからよ」


「・・・そ・・・そうかな、じゃぁ・・・この指輪2つ・・・ください」


「はいよ、毎度あり、若いって良いねぇ畜生、お兄さんだってなぁ、もうちょっと若けりゃ可愛い彼女を見つけて・・・」


おじさんが愚痴を言い始めたのでお金を払って退散します。


「ねぇリゼルくん、私もお金払うよ・・・」


「ありがとうリィンちゃん、でもいいや、これは僕からのプレゼント、魔法陣を刻んで表面を加工するから2日くらい預かっておくね、多分旅行から帰る前には渡せると思う」


「何するのか分かんないけどいいよ、楽しみにしておくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る