第11話 Side - 12 - 9 - こおりのあくま -

Side - 12 - 9 - こおりのあくま -



皆様始めまして、私の名前はリィンフェルド・フェリス・ローゼリア 13歳。


ローゼリア王国の第一王女です。


リゼちゃんに頼まれまして・・・私がリゼちゃんと初めて会った時の事をお話ししようと思います。


私は気が弱く、あまり頭が良くないのですが王族として勉強に、礼儀作法にと今まで頑張って参りました。


そんな私の周りには、権力に目が眩み、欲望に塗れた人間が群がって来ました、私に媚びたり、逆に操って利益を得ようとしたり、そういった人間は2番目のお兄様が見抜き、あとで私にこっそりと教えてくれるので随分と人間不信になりました。


そういった人達にうんざりしながら生活をしていたある日、彼女に出会ったのです。


私の両親(国王と王妃です)には親友と呼べる程信頼を置いている貴族家があって、そのご家族と久しぶりにお茶会をする事となり私も参加させて頂きました。


お父様とお母様に連れられて家族で使っている娯楽室に入るとすでにお客様がいらっしゃっていました。


随分と凶悪そうな・・・いえ、いかつい・・・、違いますね、・・・そう!、威圧感のあるお顔をした人達、ご家族でしょうか、大人の男女2人と女の子が2人・・・片方は男の子かも?。


話を始めると顔に似合わず・・・・いえ、失礼しました、気さくな方々で、両親とは面白おかしく話が弾んでおりました、その中で私に厳しい視線を向ける女の子が一人。


このお部屋に入ってからずっと私を睨んでいるのです、その鋭い視線は、「私、2、3人殺してるよ」って言われても信じてしまいそうなほど恐ろしく、私はお母様の背後に立ったままで様子を伺っておりました。


そうなのです、座ると襲い掛かられても対応できない・・・、王族たる者すぐに危険を察知して対応できるようにしておかなければならないのです!。


しかし、とても恐ろしい事に彼女はじわり、じわり、と、「・・・カンタイコレクションノアサシオチャン」などと意味不明な言葉を呟きながら私の方に近付いて来ます。


私から鋭い視線を離す事なく無表情でです!、とても恐ろしく、助けを求めようとお母様の方を見ると、お友達との話に夢中になっておりいつの間にか私と離れて座っていました、そう!、今の私は孤立無援、ただ一人この敵と戦わなければならないのです!。


私の視線に気付き、彼女は私から視線を初めて逸らします、そしてその視線は私の胸に飾られたアクセサリーに向いております。


何でしょう?、それを寄越せとおっしゃっているようです・・・、いえ、これは私の宝物、お母様が私の誕生日に買ってくれたものなのです!、そう簡単に渡せません!。


「・・・あ、あの・・・」


私は脅しには屈しないと言いたくて彼女に声をかけましたが、私の心の声をまるで読んでいたかのように彼女が視線を上げ・・・、ひぃぃ・・・凄い目つきで睨まれてしまいましたぁ!。


顔が近いです!、下から睨み上げるように向けられたその視線には確かな殺気!、そう私は腐っても王族、殺気には敏感なのです!、とても恐いです!。


挫けそうになってお母様に助けを求めようとすると・・・向こうのおばさまと見た事が無いような笑顔で楽しそうにお喋りをしていました、ちっ、役に立ちませんね・・・ここで私が王族として舐められるわけにはいかないのです!。


また心を読まれてしまいましたぁ!・・・、彼女は首を右に傾け、凶悪な笑顔で・・・。


こ・・・、これは私がお忍びで城下へ遊びに行った時、護衛の女性騎士さんと歩いていて目撃し、「あれは何をしているのです?」って聞いて教えてもらったやつですね!。


ごろつきが弱者からお金を巻き上げる時の仕草!、「おうおう兄ちゃん痛い目に逢いたくなけりゃ有り金全部出せや!おぉ!」っていう・・・そう!、カツアゲです!。


嫌です、私は痛い目には逢いたくないのです!お父様助けて!・・・と父親に目を向けると男の子を抱き上げて楽しそうにおじさまとお話しされています、何という事でしょう、娘がカツアゲされているというのに・・・・。


・・・もうおしまいです、悔しいですが私の負けですね、王族には潔く引かなければならない時があるのです!、私の宝物を彼女の手に渡し・・・。


「・・・・こ、これで許して・・・・許してくだしゃい!」


噛みました・・・、あまりの恐怖で私は恥も外聞も捨てて命乞いをしてしまいました、こんな事では王族としての威厳が・・・・トリエラさん・・・護衛の女性騎士さんが教えてくれた小説に出てくる、「くっ・・・殺せ!」みたいなかっこいいセリフを言えなかった私は弱虫毛虫のダメダメな出来損ないです・・・あぁもう情けなくて消えてしまいたい!。


そう思っていると、「ニタァ・・・」って、彼女が酷く気持ちの悪い顔をして。


「・・・いいの?」


と言うではありませんかぁ!、私は確信しました、この凶悪な笑顔は、「私2、3人殺したよ」なんて甘いものじゃなく、「私、実は10人くらい切り刻んで殺した後その肉を食べたよ」っていう人間がする顔だと!。


・・・あ、もう涙と鼻水が出て来ました、私の完敗です。


「どうぞ・・・お納めくだしゃい!」


・・・また噛んでしまいましたぁ!、そして追い打ちをかけるように彼女は手を私の頭に伸ばし・・・え、私食べられちゃうの?・・・。


一刻も早くこの悪魔から逃げないと!、もう私を見捨てたお父様やお母様の事を心配している暇はないのです!、人間というのは本当の恐怖で追い詰められた時、結局は自分が一番可愛いのです!。


「私ぃ!、ちょっと急用を思い出しましたぁ!、お父様!、お母様!少し席をはすしましゅね!、し・・・失礼しましゅ!」


ここまで来たら淑女の礼儀作法などと言っている余裕はありません、命が何よりも大事です!、私はお部屋を飛び出し、自分のお部屋でお布団を被って泣きました、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃです!、私の宝物はカツアゲされたし!、本当に怖かったのです!。






次に彼女に会ったのは新年の夜会でした。


私は周りに寄って来る羽虫のような強欲貴族を華麗にかわしながら美味しいお料理を楽しんでおりました。


「うちのお料理おいしいなぁ、あ、あっちに綺麗なお菓子がある、でも先にお菓子食べちゃうとお料理入らなくなるかなぁ、後で護衛のトリエラさんに頼んでこっそりお菓子を包んでもらいましょう、それでお部屋で夜中に食べるのです!ふふふ、なんて私は悪い子なの!」


久しぶりの夜会に私は浮かれていました、向こうに上のお兄様がいる!、お飲み物を持って行って頭を撫でてもらいましょう。


「お兄様!」


「あ、リィンたん、夜会は楽しんでる?、その飲み物くれるのかい?でも僕色んな人に飲み物もらってお腹がたぷたぷなんだ、あそこにヴィンスがいるから持って行ってあげなよ」


上のお兄様がそう言って顔を壁際に向けます、確かにあの後ろ姿はヴィンスお兄様ですね!、2人とも私にとても優しくしてくれる自慢のお兄様達なの。


「はーい、ふふふ、ちょっと驚かせちゃおうかなっ」


後ろから小走りで駆け寄り「お兄様っ!」ってお声をかけましょう!、びっくりするかなぁ?。


私はお兄様に向かって駆け寄りました、おや、誰かとお話ししているようです、ドレスを着ているから女の子ですね、最近好きな子ができたって言ってたからその子かも?私も紹介して欲しいな。


お兄様の背中の影から銀髪が見えました、お顔も少し見た事があるような・・・・。


ひぃぃぃ、あれは先日のカツアゲ悪魔!、ダメ!、あれに関わると命がいくつあっても足りないのです!、急いで方向転換しようとしたその時。


「あ、足がもつれて・・・」


こけましたぁ!、頭からシャンパンタワーに突っ込んだのです、盛大にヴィンスお兄様とカツアゲ悪魔を巻き込んで・・・・。


大惨事でした、静まる会場、えぐえぐと凶悪な顔に似合わず可愛らしく泣き出したカツアゲ悪魔、呆然とするヴィンスお兄様、シャンパングラスの山の中からざざざーって立ちあがる私、3人ともシャンパンでずぶ濡れです。


「や、・・・殺られる」


この後訪れる私の運命を想像して震えました。


あの悪魔を怒らせたのです!、泣いてるうちに少しでも点数を稼いでご機嫌を取らないと!。


「こ・・・・こっちに来て」


震える体でカツアゲ悪魔の手を引いて会場から逃げ出します、自分可愛さに放置してしまったヴィンスお兄様は、・・・ごめんなさい後で謝りに行きましょう・・・うぅぅ、今日はなんて最悪の日なのでしょう、せっかくの楽しい夜会だったのに。


私は専属護衛の女性騎士・・・トリエラさんにお願いしてメイドさんの手配と着替えのお洋服2人分、それとお風呂の用意をお願いしました。


トリエラさんが男性騎士に頼んで素早く手配をしてもらっています、それにしてもかっこいいな、私に色んな事を教えてくれるし、私もあんな風に「できる女性」ってやつになりたいなぁ・・・。


彼女は騎士を多く輩出しているガンスリング家の長女、剣の腕を評価されて若くして私の護衛騎士に抜擢された優秀な女の子です、今は同じ専属護衛騎士、相棒となるムッツリーノ・ヒルシャーさんが教育係となって一人前の護衛騎士に育てている所なのだそう。


あ、そういえばこの前ムッツリーノさんが好きで告白したいって言ってたよね、何か進展あったかな?。


・・・って、そんな事を考えてる場合じゃない!、早くこの悪魔をお風呂にドボン!してご機嫌をとらないと!。


今度は何を要求されるのかな・・・お金・・・かな?、ダメよリィン!、私のお小遣いは全部国民の皆様の血と汗と涙の結晶である税金!、こんな悪魔に渡すわけにはいかないわ!。


あのお金は欲しいものも我慢してお小遣いを少しづつ頑張って貯めた私の努力の結晶なの!、お忍びで城下に遊びに行く軍資金!、全部持っていかれたら多分泣くと思う・・・。


私のお部屋の隣には浴槽があって、そこでお風呂に入る事はできるのです、でも私だけの為にお風呂を用意してもらうのは心苦しくて、いつもは毎日用意されている使用人用の大浴場を使っているのですが今日は私室の浴槽を使います。


それにしても何故私は裸に剥かれてこの悪魔と一緒に洗われているのでしょうか?、私と悪魔、肩を並べて浴槽に浸かります。


メイドさん達からは「姫様お友達ができてよかったですねー」と意味の分からない事を言われていますがそれどころじゃないのです、横ではまだ悪魔が洗われながら、「ひっく・・・ぐすっ」って泣いています、ここでご機嫌をとらないと私は終わります!。


「リーゼロッテさん、もう泣かないでください、美人さんが台無しです」「そんなに泣いてると可愛いお目目が溶けちゃいますよ」と、自分で言っていて鳥肌が立つようなお世辞を交えて精一杯のご接待・・・。


洗い終わり服を着替えた後、私は改めて謝罪をします、心の中で殺さないで下しゃい・・・って祈りながら・・・。


「私の不注意でシャンパンをあなたにかけてしまい申し訳ありませんでしたぁ!」、メイドさん達や騎士さん達が見守る中、腰を直角に折り曲げて全力精一杯の謝罪です、私のこれからの人生の中でもこれ以上の謝罪は無いだろうってくらいの気持ちを込めて!。


カツアゲ悪魔は目を真っ赤に泣き腫らして無表情です。


・・・いや何か言えよ!。


思わずそんな事を考えますが・・・、ダメよ!この悪魔は私の心を読むの!、こんな事を考えてるのバレたら今度こそ終わるわ!。


・・・しばらくして悪魔が囁きます。


「・・・あ・・・あの・・・リィンフェルド王女殿下、・・・お願い・・・です・・・私の・・・お話し・・・聞いて下しゃい・・・・ひうっ・・・」


遂に来ました、金銭の要求です!、いくら?、いくらまで出せる?。


今私の貯金箱、動物さんの可愛いやつなの、その中には小金貨が18枚と銀貨が少し、これが今の私の全財産!、どうにかして小金貨10枚程度で手を打ってもらって・・・・、うぅ、惜しいです!・・・また涙が出てきましたぁ・・・下唇を噛み、握りしめた手のひらに爪が食い込みます・・・さようなら私の金貨ぁ・・・。


「2人だけで・・・・お話し・・・あるの・・・」


とんでもなく恐ろしい要求を私にしてきました!。


トリエラさんが難色を示しましたが、「陛下の親友で宰相補佐殿の娘さんだから大丈夫だろう」と言うムッツリーノさん、余計な事を言うなぁこの腐れ外道がぁ!、・・・失礼しました狼狽えてしまい少し言葉が乱れましたね。


お部屋を出て行こうとするトリエラさんの腕を悪魔に気付かれないように掴みながら小声で「待ってトリエラしゃん、ここにいて下しゃい・・・」と震えながら訴えて部屋に残ってもらい悪魔と向き合います。


「リィンフェルド王女殿下・・・あの・・・」


この後、「・・・あの」とか「ひうっ・・・」って言いながら非常に話が長くなるので私が翻訳してお伝えすると。


「私は顔が怖いらしくて、自分ではそんな気はないのに皆からとても怖がられています」


「私はとても人見知りで気が弱く、他人と話をする時うまく言葉が出ないのです、それで余計に怖がられて悲しい思いをしています」


「訳あって若い男性が震えるほど怖いのです、だからヴィンス第二王子殿下が迫って来た時何もできずに怯えていました、助けてくれて感謝しています」


「私は普段からお家にひき篭っているせいで一人もお友達がいません、でも寂しくてできればお友達が欲しいのです」


「リィンフェルド王女殿下が優しくしてくださった事に感動しています、嫌ならそう言って欲しいのですができれば殿下とお友達になりたいです」


「殿下に断られたら私はもう立ち直れないし、一生友達を作らないで山に篭って独りで暮らすしかないと思います、私を助けると思ってお友達になってください」


とても分かり難かったのですがおおよそこのような内容だったと思います、よく理解できたな、偉いぞ私・・・。


泣きながら私とお友達になりたいと話すリーゼロッテさん・・・、私はバカですね、外見に惑わされてこんなに気の弱い大人しい子を怖がって避けてたなんて。


よく観察するとこの子からは普段私にまとわりついて来る欲深い貴族令嬢のあざとさやいやらしさは全く感じられません、あぁ、私もこの子とお友達になりたいな!って思ってしまったのですよ、ふふっ、私の金貨は無事でお友達ができましたぁ。


「いいよ、私からもお願いします、是非私とお友達になってください!、私のことはリィンって呼んでね、リゼちゃん!」


そして私達が親友と言えるくらい仲良くなるのに時間はかかりませんでした、私にとっても初めてできたお友達・・・という事になるのでしょうね。











これは誰かに聞かれているのでしょうか?。


どうでもいいですね、・・・年寄りの独り言なのでどうかお気になさらず・・・。


・・・こんにちは。


私の名前は・・・リィンフェルド・フェリス・ローゼリア、96歳・・・。


今日はやけに体調がいいな・・・。


・・・昨日リゼちゃんと初めて会った頃の事を思い出していたからかな。


あの頃は楽しかったなぁ、2人でいろんな所を旅して、バカな事もいっぱいやって・・・ふふっ。


・・・でも私の人生はもうすぐ終わっちゃう、・・・あと何日生きられるかな、・・・私が居なくなったらリゼちゃん泣いちゃうだろうなぁ。


たくさん迷惑をかけちゃったけど、・・・あなたに出会えて私はとっても幸せでしたよ、ありがとう・・・元気でね。


・・・あ、そうだ、私以外にもお友達を作らなきゃだめだよ・・・・。

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