第8話 扉を開けて

「おはよう!!」

 めいが復活だ。いつものパワフルな笑顔で、玄関の前に立っている。

 嬉しすぎて、一瞬言葉に詰まる。なんか泣きそうになる。このところ続いていた苦しい日々は、自分が思っていた以上に私にダメージを与えていたみたいだ。めいの笑顔にこんなにもホッとしている自分がいる。

「おはよう!」

 それでも元気を出して言ってみる。『病は気から』というし、気持ちから元気に切り替えよう。そう思って。

「よし! がんばっていくぞ」

 めいは気合いの入った笑顔で、私の肩を叩いた。私も、気合いを入れてうなずく。

 めいには、このところの出来事については、昨日話した。めいは、クラスメートたちの誤解に怒り、自分がいなくて、1人でつらい思いをさせてごめん、と言った。そして、私の窮地を救ってくれた、井川くん、水原くん、三田くんのことを、『ええ人らやん。よかった、そんな人らがいてて』とホッとしたように笑った。

 

 私は、時々思う。みんな学校に行くの、平気なんかな? 朝起きるのがイヤとか、勉強がイヤ、とか友達とケンカしたから行きたくないとか、いろいろあるだろうけど、それでも、みんな楽しそうに見える。普通に笑って、おしゃべりして。

 そういう私自身も、今回の誤解事件が起きるまでは、他の子と同じように、普通におしゃべりして笑って過ごしていたけど。それでも、いつも学校という存在は、私には、“楽しさ”より“気の重さ”の方が大きい。

 ただ先生の話を聞いていればいい授業は、休み時間より天国だ。それなのに、この頃は、グループで意見交流をせよ、なんていう授業が増えて、ボーッとするどころか油断もスキもない。クラスみんなの前に出て、プレゼンをしないといけないことも多い。

 のんびり空想の世界をさまよっていたいから、授業中ぼーっとしてられへんのがしんどい、なんて。に~にが聞いたらあきれそうだけど。


「笑顔の先制攻撃!やで」

 口数の少ない私が、不安なのだと察しためいが、言う。

「笑顔で堂々としてる人を、人は叩きづらいねん。背中を丸めて、心細そうにしてる人には、強気でかかってくる。やから、普通に笑顔で行こう。私がついてるで、実晴」

「うん。そやな。ありがとう。がんばるわ」

「それに、私ら席は、前と後ろやし。なんかあっても、私が一緒におるから大丈夫」

「おお。なんて心強いお言葉。さすが、めい。なんて頼もしい」

「おう。まかせとき」

 めいが胸を叩く。


 保育園の頃からの付き合いだけど、めいはいつもそうだ。頼もしくて優しい。

 ブランコで並んでいて、順番が来たのに知らない間に横入りされて、押しのけられてしまう、ぼんやりした私のために、順番を抜かした子に文句を言ってくれたのも、めいだ。

 私より小柄で華奢だけど、心はずっと強くて広くてたくましい。前に本人にそう言ったら、

「たくましい……って。まあ、ええけど。でも、実晴、あんた、自分で思ってるよりずっと強いと思うよ。自覚してないだけ。でも、そんなとこも実晴のええとこやけどね」

 そう言って笑った。

 

 そんな話をしているうち、学校に着き、上靴に履き替えて、私たちは教室に向かう。

 このところ、胸がきゅっと締め付けられる思いをしながら歩いた廊下を、今日は、心強い味方を隣にして歩く。


『あんた、自分で思ってるよりずっと強いと思うで』

 めいの言葉が、私の中に響く。

(そうか。私、実は強いのか。めいが言うんだから、そうかもしれない。いや、きっとそうなんだ)

 単純やけど、力が湧いてきて、私は、教室の扉を思い切って開けた。

 

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