第5話 違和感

 かすかに異変に気づいたのは、それから2日ほどしてからだった。

 朝、吉田さんに会ったとき、「おはよう」と声をかけると、返事が返ってこなかった。そういえば、昨日もそうだった。朝の教室はやかましいから、たまたま聞こえなかったのかな、と思っていた。

 でも、今日は、廊下で周りに誰もいなくて、明らかに、目の前にいたのはお互いだけなのに、彼女は、返事をしなかった。

 なんでやろ?

 なんとなくイヤな予感がしたけど、家で何かあって機嫌が悪いだけなのかもしれない、そう思うことにして、私はいつも通り教室に入った。

「おはよう」

 左隣の席の仁科さんに声をかけた。返事がない。というか、彼女は、返事をする代わりに、わざと反対側を向いて、他のクラスメートに話しかけ、私の声に気づかないふりをしている。話しかけられた子は、私の方を、一瞬ジロリとみて、知らん顔をした。

 

 え? なにこれ?

 心の中に、ちょっと暗い雲のような不安が立ちこめそうになったけど、彼女たちは吉田さんと仲がいいグループだから、きっと何か、深刻な彼女たちなりの事情があって、今は挨拶どころじゃないのかもしれない。そう思うことにして、荷物を机の中に入れて、1時間目の用意をした。

 

 予鈴ぎりぎりに、井川くんが入ってきた。

「おう。おはよう、佐野」

 彼が自分から、挨拶してくれたので、私は少し救われた気持ちになって、

「おはよう」と笑顔で答えた。

 背後で、何かささやき合う声がする。

(ほら。男子には)とか、(やりかたがせこいよね)とか。

 まさか、私のことじゃないよね? ほんの少し、不安になってくる。

 でも、吉田さんのグループ以外の子とは普通に話せたので、私は、ひと安心していた。

 

 

 でも、事態は、それで終わらなかったのだ。

 その次の日から、吉田さんのグループ以外の子たちも、私が話しかけると、吉田さんたちほどあからさまではないけれど、なんだか、みんながよそよそしくなった。

 なんで? 

 なんで?

 まったく理由が分からない。

 私は、不安でたまらなくなった。

 何かが起きている。

 なんだかまったくわからないけど、何かが。

 なんで? 

 きっと、何かとんでもない誤解があって、こんなことが起きているに違いない。


 でも。もしかしたら、知らない間に、私、何かしたんかな? 


 不安で、足元がぐらぐらするような気がして、私は、必死に一日を終えると、急いで家に帰った。

  

 夜、なかなか寝付けない私のそばで、に~には、じっと枕の上にのっていた。

 私は、に~にに言った。

「ねえ。に~に。眠くなるまでそばにいてね」

「ええよ。ずっと、いてるよ」

 に~にの声は、温かくて、だから私は、ほんの少し泣いてしまった。


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