第4話 思いがけない出来事
初めての中間テストは無事終わり、結果もけっこう良くて、に~には、
「ようがんばったな」
そう言って、頭をなでてくれた。
それだけで、私は、もう最高の気分だった。
朝は、登校途中で、笑顔の貴公子(いつのまにか、彼は女子からそう呼ばれるようになった)、水原くんに会って、一緒におしゃべりしながら登校することも多い。 毎日は、穏やかで順調だった。
そんなある日、放課後、ホウキにからまった髪の毛やゴミやホコリを専用のクシのようなモノで、取る作業を美化委員がすることになった。他のクラスは、複数の委員が一緒に作業をしている。
同じ美化委員の吉田さんは、
「私、すぐに部活行かんとあかんねん。先輩に怒られるから。ごめんな。また、今度やるときは、わたし、やるから」
そう言ったので、結局、私は、1人で、ホウキにクシを通していた。正直、ホコリやゴミや髪の毛の絡まっているのは、気持ちのいいものじゃなかったけれど、驚くほど、きれいに取れるので、やってる途中からは、ちょっと楽しくなりつつあった、そのとき、
「手伝うわ」
そんな声が降ってきた。
見上げると、水原くんだった。
「ええよ。美化委員の仕事やし」
「じゃあ、オレ、美化委員になるわ。先生にどれでも好きなんやってええで、って言われてるねん。空きがあるのは、体育委員か美化委員で、迷っててんけど」
「ほんま。じゃあ、一緒にやる?」
余っていたクシのようなモノと軍手を手渡す。
「お。ありがと」
2人での作業になった。効率がめちゃくちゃアップする。
「なんか、めっちゃ気持ちええくらい取れるな、これ。ほら、新品みたいやん」
「ほんまやね」
「なんか、きれいになるから、楽しいな」
「うん」
水原くんは、めんどうくさいことも、楽しめるタイプのようで、そんなところも、好感度が高い。
たくさんあったホウキの山も、あっという間に片付いて、私たちは手を洗って、ひと息ついた。
手洗い場の窓の向こうで、青空を雲がゆっくりと流れていくのが見える。爽快だ。
「ありがとう。おつかれさまでした」
私が言うと、水原くんは、
「美化委員として、これからもよろしく」と笑い、教室に置いてあったカバンを取ると、
「じゃあね」と言った。
「部活?」
「うん。今日は、自主練の日やけど、ちょっとだけ練習しよかな、と思って」
「ああ、三田くんたちに誘われてたね。がんばってね」
「うん。ありがとう。行ってくるわ」
水原くんの笑顔がずっとそこに残っているような、そんな気がして、私はその場をしばらくの間動けなかった。
そんな私を、渡り廊下の向こうからじっと見ている誰かがいたことを、私はそのとき、まったく気づいていなかった。
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