第16話 東の太陽

 東の太陽と西の太陽が戦争を始めた。

 東の太陽は西に沈むことができなくなり、西に現れた太陽は東へ向かい移動を始めている。

 どちらの太陽が本当の太陽なのか。地上は二つの太陽をめぐって争いが始まった。

 西の太陽は西の空に陣取りつづけ、太陽が西から昇る時代を始めようとしていた。地上では、西の太陽を支持するべきだという政治集団が一斉に蜂起して、太陽の交替を要求した。彼らの要求はWEBを埋め尽くしている。

 突然、始まった天体干渉戦に人類は困惑した。ほとんどの人々が天体干渉戦という概念を知らなかったため、この事態に備える準備が足りなかった。

 天体の運行に干渉できる種族が地球にいくつあるのか。古代アジア人はそれができる種族だった。古代アジアから流出した技術を何人が使えるのかはっきりしなかった。天体干渉戦はあまりにも危険な戦争だ。

 西の太陽を出現させたのは、人類の術者なのか。それとも非人類の術者なのか。それすらわからなかった。

 地動説を知っている我々を天動説を信じている時代遅れが脅かすという屈辱の展開が進展した。西の太陽を呼び寄せた政治勢力は、天動説で事態を考えており、しかし、それでも充分に地動説を知る我々を脅かすに足る力を持っていた。

 西の太陽は、地動説を信じるなら、地球の自転を西側から東側へ動くように、太陽に等しい大きさの天体を太陽系内で動かしていることになる。太陽系内にあまりにも大きな質量が突然現れたため、太陽系自体が危機に陥っている。西の太陽を呼び寄せたものはそのような危険をこの宙域に引き起こした。

「新しい太陽を信じろ。太陽の交替の時が来たのだ」

 西の太陽の支持者たちは声高く訴えた。

 彼らは地動説を信じていない。世界を天動説的に解き明かし、支配しようという政治勢力である。しかし、地上での覇権を争うのに充分なだけの力を持っている。

 人々は迷った。どちらの太陽を支持したらよいのか。古い太陽か、新しい太陽か。

 あまり戦いが長引くと、大きな力の均衡が崩れて地球が壊れる。そうなる前に決着を付けなくてはいけない。

 太陽の大きさからして、西の太陽は火星よりも遠い位置にあり、太陽系内で地球の自転に動きを合わせて移動している。

 天体干渉技術を持つ非人類の生物たちは、二つの太陽の戦争を通して我々人類に語りかけている。人類よりも深く天文学を知る地球種族がいる可能性をこの事態は示唆している。非人類の天文学は、天動説と地動説の対立程度の簡単なものであるとは限らない。天体干渉戦が始まってしまった以上、地上の技術で星々を再配置するほどの戦争がこの地球で起こる。

「地動説を知るものが勝利するべきだ」

 と賢者たちはいったが、それがどのように実現するのかは説明できなかった。

 東の太陽と西の太陽が戦争をしている。

 天動説を信じている政治勢力が天体干渉戦に勝利したことはあるという。だから、戦争の勝敗は簡単には決まらない。

 新しい太陽の支持者が増え、古い太陽を打ち負かそうとした。西の太陽が東の太陽に勝とうとした。

 太陽系の天体が地球表層の術者によって再配置され、水星、金星、火星、小惑星、木星、土星、天王星、海王星、彗星群は、神秘性を強調する位置に移動した。それはたいへん驚くべき事態であった。

 敗戦の可能性が見え始めると、追い詰められた賢者たちが本気を出し、今、語るべきことばを探し始めた。それは次のようなものであった。

「正統な太陽は東の太陽である」

 賢者はことばをつづけた。

「東の太陽はただ地上に陽光を降り注いでいただけではない。東の太陽は我々人類と未知なる領域で深く結びついている。ただ同じ陽光をもたらすことができるだけで、東の太陽を西の太陽と交換してはならない。我々人類の探検家は、何度も東の太陽に飛び込んでいる。そのたびに、探検家の死体から東の太陽は我々人類を認識している。そのつながりを忘れてはいけない」

 いざ、東の太陽を支持することが正しいのだと決断されると、人類の動きは速かった。東の太陽の支持者が一斉に蜂起して、西の太陽を攻撃した。火星よりも遠くにある西の太陽へ宇宙船に乗って攻め込んだ。

 西の太陽が燃え尽きるのに何年かかるのかわからない。それまで待つことはできないため、西の太陽を太陽系外に追放しなければならなかった。西の太陽の一部を爆破して、ジェットを噴出させ、西の太陽を太陽系外に追放するように移動させた。

 西の太陽を呼び寄せた術者が人類のアジア人であることがわかると、その住居が襲撃されて、状況確認のために住民がみんな拘束された。西の太陽の支持者は敗北した。

 東の太陽が勝利して、再び、東から西へ太陽が動く一日が始まった。

 東の太陽と西の太陽が争っていた4800時間の一日が終わり、太陽の運行がもとに戻った。太陽系の天体はもとの位置に再配置された。こうして平和が取り戻された。

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