煙が出たならさようなら

 気の早い蚊に刺された痕を掻き壊してガーゼと包帯まみれになった右腕をぶら下げて先輩の見舞いに行けば、先輩は寝台の上から「片腕だけもうハロウィン仕様か」と揶揄うように笑っていたが、その顔色が病室の清潔な照明の中でも誤魔化せないような有様なので、先輩こそゾンビ映画にでも出るんですかとも返せず黙って手土産の文庫本を置いて退室逃げだしたのだけども、帰りに駆け込んだ駅前の喫煙所で縋るように一本に火を点けてハロウィンまで生きてられんのかなあの人と考えてから、どちらかというとお盆に化けて出てくる方が早いかもしれないなと病衣から覗いた痩せた腕を思い浮かべて、俺はまだ長いままの吸い殻を灰皿で押し折る。

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