先輩(ver2.0.1)

 金曜の夜中に『実家に顔出してくる』とメッセージを寄越したきり先輩と連絡が取れなくなり、一週間ほど経ってから土産らしい箱菓子を提げて俺の安アパートを訪れた先輩は明らかに偽者で、名乗る名前と煙草の銘柄以外は左目元の黒子も薄い唇も掠れているのにやけに柔らかな声も以前の先輩とは何もかも違うのだが、貸した本を行方不明にすることも月末に飯と煙草をたかるようなこともしないし、俺がこうしてサークルの飲み会で酔い潰れても見捨てずに介抱してくれるので、以前の先輩よりいい先輩かもなと思いつつ、嗅ぎ慣れた煙草の匂いとこちらを心配そうに覗き込む知らない顔にこみ上げる吐き気を、俺はどうにか酒のせいにしようと試みる。

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