鬼一口

 飲み会でも二次会でも散々に飲み終電を逃した連中が勢いのまま雪崩れ込んだ先輩の家で飲んだくれているうちに殆どの人間が酔い潰れてしまった午前一時、酔い切れず眠れもせず狭い台所で一服してから居間に戻れば、馬鹿のペースで飲んでいた連中に加えて家主の先輩も床に転がっており、死屍累々だなと呆れつつ座り込めば、こちらに背を向ける先輩の後頭部に口があることに気付いてしまい、艶のない黒髪の合間に覗く淡い血色の唇が果たして本物なのだろうかと手を伸ばせば「指短くなっても知らないよ、俺も酔ってるから加減ができないし」と酒に掠れた先輩の声がして、後頭部の唇が笑みの形に捻じ曲がる様から俺は目を逸らせずにいる。

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