三度目の正直

 叔父の背中には傷跡が二つあり、詳しくは知らないがどうも刃傷沙汰かつ怨恨痴情によるものらしく、その二つの傷により叔父の素行やその他諸々のろくでもなさは万全に証明されているのだが、その叔父が去年のひどく寒い十二月の夜に忘年会をしようと一人暮らしの俺の部屋に押しかけてきたのでそのまま家飲みになだれ込んだときに、酔いの回った叔父が「お前が誰か刺したくなったら、とりあえず俺にしとけよ。二つも三つも変わらないからさ」と嘯き、焦点の蕩けた双眸が夜の海のように真っ黒だったことと、そうして刺せばその三度目の傷を最後の傷にできるのだろうかと酔いに眩む頭で考えてしまったことを俺はどうにも忘れられずにいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る