彼女のためならどこまでも

 女っ気のなかった先輩にどうやら彼女ができたらしく、顔を合わせるたびに彼女と行った場所や日々の何気ないできごとなどの当事者以外には全く面白くない惚気を聞かされるので、そのうち彼女の語が入った時点で話を丸々聞き流すようにしていたのだけども、最近そのつまらない惚気の中に「嫉妬した彼女に右手を噛まれたけど指二本だけで済んだ」とか「彼女の首が最近二つに減ったので体調が心配」などが混ざるようになり、確かに先輩の右手には包帯が巻かれっぱなしだしよく見ると頬や首元に生傷も目立つような有様なので、先輩そんな女やめた方がいいですよと俺が言っても、先輩はまだ生乾きの傷が残る頬を歪めて困ったように笑うばかりだ。

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