夢で会えたところで、

 死んだ兄が実家の居間にいたので、これは夢だと分かった。

「お前はいつも大事なことを先延ばしにするから」「後悔してから何かやったって手遅れなんだよ」と穏やかな口調で正論をぶつけてくるのは生前と同じで、好き勝手言って立ち去ろうとする兄の手を掴み引き倒してからその青白い顔面を殴りつけるが、声も上げずにただ殴られながらも戸惑いすら浮かばない兄の昏い目に、あの日の朝こうして手酷くぶん殴ってやったら会社も休んでくれたろうしそうしたら電車にも飛び込まずまだ生きていてくれただろうかとどうにもならないことを思いながら、指先に纏わりつく血の熱さに戸惑っている。

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