箕田くんでしょ?

 無人駅でベンチに座って電車を待っていた。

 隣に座った男が「きみ箕田くんだろ?」と知らない名前で俺を呼ぶので、違うと答えたが「箕田くん、オセロ強いんだよ。高校のとき、学祭でやったオセロ大会で準優勝して。詰めが甘いんだよねそういうとこ」「箕田くんさ、大学のとき先輩から誕生日に貰ったライター、引越しのときに失くしてまだ見つけられないんだって」と一方的に語られる思い出らしきものが全て俺が今まで経験してきたものばかりで、男にも箕田という名前にも一切覚えはないのだけれどもそれを尋ねるのも躊躇われ、「箕田くん今どうしてるんだろうな」と呟く男の口元には微かに八重歯が覗いている。

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