さしも知らじな燃えろよ燃えろ

 月に一度、酒と菓子を手土産に家を訪れる叔父は、決まって夜中になると換気扇の薄黄色い照明だけが灯る台所で咥え煙草のまま灰皿の上で事務用封筒を燃やしているので、いつかの悲鳴じみた風が窓を叩く雨の夜に一体何を燃やしてるんだと尋ねたら「恋文だよ」とやけに古風な答えを返してから叔父は昼間と同じように笑ってくれたのだけども、細められた目は泥のように暗く、薄闇に漂う紫煙に混じって微かに血の匂いがすることについては未だに聞けずにいる。

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