笑みに花、声に蜜、唇に蛇

 バイト先の先輩は仕事もできて気配りができて物腰も穏やかという総合してよくできた人間で、それでいて趣味が悪い映画や俗な本の話題も通じるので俺みたいな人間ともそれなりに親しい同僚として付き合ってくれているのだが、たまにその口元からぞろりと真っ黒な蛇が這い出ることがあるのだけども本人曰く「人を羨むと出てきちゃうんだよな」とのことで、見た人間が驚く以外は特に問題もなく先輩も普段はうまい具合に共生できているようなので、先輩みたいな人は感情のコントロールもちゃんとできるんだなと益体もないことを考えながら、休憩室の椅子で居眠りを始めた先輩の口元で赤い鞭のような舌がちろちろと閃くのを眺めている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る