残響あるいは予響

 母が死に父が病み誰もいなくなった実家に一人で暮らしている兄から電話が来るたび、変わり映えのしない近況報告とさして面白くもない雑談を交えつつだらだらと話すのがお決まりのやりとりになっているのだが、最近になって相槌を打つ兄の声に混じってこつこつと釘を打つような音がいつ掛けても聞こえてくるのだが、幻聴なのかそれとも兄にも聞こえているのかを確認するのもなんとなく躊躇われて、規則正しく鳴り続ける無機質な雑音に掻き消されそうになる兄の声を聞き取りながら、俺は帰省の催促への返事をいつものように曖昧に濁している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る