サマー・シャッフル

 子供の頃、父が地元の夏祭りに連れて行ってくれた。

 凄まじい混雑の中、はぐれないように手を繋いでいてくれたのだが、最後の打ち上げ花火まで見終わり帰宅してから明るいところで顔を見れば俺と手を繋いで帰って来たはずの父は全く知らない人になっていて、けれども母は何も言わないし、何より知らない父はつまらない話をしたとか意味なく笑ったくらいで俺を殴ったりしなかったので、その父が出張先の宿泊所近くの海で行方不明になるまで気づかないふりをしていたのだけども、大人になった今でも花火の音を聞くとあの夏祭りで俺の父と帰った子供もいたのだろうかと想像しては胸がじりじりと煮えるので、なるべく考えないようにしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る