聞かれたことだけ教えてくれた

 初めての煙草も、酒の飲み方も、たちの悪い店の見分け方も人との後腐れない別れ方も洋楽の聞き方も馬鹿みたいに派手なアロハの着こなし方も、俺にあらかたの悪いことを教えてくれたのは叔父だったのに、飲み屋の階段から落ちて担ぎ込まれたという連絡を受けて見舞いに訪れた病院の受付で彼の本名フルネームを咄嗟に答えられないことに気づいて、そういえば俺はあの人の名前なんて一度も聞こうとしなかったのだと病室に向かう階段を登りながら唇を噛む。

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