彼岸の水は遅効性

 兄が海で死んだのは三年前のことで、気の早いことに一周忌を迎える前から自分の月命日には夢枕に立って、何か困ったことは起きていないか近所の寺の桜は咲いたのかお前そろそろ試験の頃だけど準備は大丈夫かとおよそ死人が聞く必要のないことを生前と同じ調子で尋ねてくるので、死んでも人間って変わらないんだなと思っていたのだけども、ここ数ヶ月は「どうしても許せないやつはいないか」とだけ聞いてにこにこ笑うばかりになってしまったので、俺はこの問いにどう答えるべきかそもそも答えていいのかを迷っている。

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