三日で別人、ましてや他人

 講義もバイトもない金曜の午後、玄関の方でがんがんがんと力任せにドアを蹴りつけるような音がしたかと思えば一瞬の間を置いて扉が壁に叩きつけられたであろう打撃音が耳を劈き台所との間仕切りに掛けてあったのれんを突き抜けて真っ赤なアロハシャツの男が現れ部屋のテーブルを踏み越えベランダの網戸を蹴倒しそのまま飛び降りたのだけども、ちらりと見えた横顔がゼミの後輩だったような気がして、ただあいつは派手なアロハを着るようなタイプではなかったし何より先月アパートの階段から落ちて死んだはずなので、俺は空っぽのベランダから入り込む湿った風に吹かれながら遺影以外のあいつの顔をどうにか思い出そうとしている。

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