心中とも共犯とも同類とも

 サークルの飲み会、二次会の果てに終電を逃した俺を一人暮らしのアパートに招き入れた先輩が言うには、ここ最近夜中の一時になるとドアの鍵がゆっくり回って開いてからノブがそろそろと下がってチェーンが音も立てずに伸び切ってからそのまま逆戻しのようにドアも鍵も閉まるのだそうだ。

 とりあえず警察沙汰なんじゃないですかと俺が聞けば先輩はチェーン掛けてれば入ってこなかったしと煙草に火を点けて、ところで今日はせっかくお前がいるわけだから、チェーンを外して置いたらどうなるか試してみたいっつったら怒るかと先輩は煙を吐きながら視線だけを俺に向ける。


「危ないじゃないですか」

「そうだな。だからだよ」


 これはただの好奇心なのかそれとも心中の誘いなのかを考えながら、俺は換気扇に吸い込まれる頼りない紫煙にあと五分だと笑う先輩の口元に光る八重歯を眺めている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る