兄からの一言

 どうにも寝付けない午前一時、ベランダで煙草を燻らせていたら「でも兄ちゃん先輩のことはそろそろ忘れた方がお前のためだと思うよ」と真横から声がしたので振り向けば塗装の所々剥げた手すりに乗り深刻そうに眉を寄せてこちらを見る生首と目が合って、そういえばこの煙草はバイトの先輩が深夜シフトの上がりにどういう風の吹き回しか無理矢理に押し付けていったものだったということと、その先輩と連絡が取れなくなってもう一年が経ったのだと気付いた途端、生首は手すりの向こうの夜に身を投げ失せて、俺は随分短くなった煙草も消せないまま生暖かい五月の闇に立ち尽くしている。

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