がんばれ! イーグルス

飛鳥 竜二

第1話 がんばれ! イーグルス

 8月末、夏に弱いイーグルスは連敗を重ね、18あった貯金はなくなり、順位は4位に転落していた。石山監督をはじめ、首脳陣は監督室でため息をついていた。

石山「なんかムードを変える手だてはないかな?」

真木「チームを明るくするムードメーカーがいればいいのですが」

石山「ムードメーカーか? ウィリーみたいなのがいればな」

真木「トレードを申し込んで、呼び戻しますか?」

渡部「イーグルスに残れると思っていたのに、急にトレードされたから、だいぶ怒っていました。戻ってはこんでしょう」

 しばしの沈黙が続いた。選手の中にムードメーカーを作るより、この首脳陣の中にムードメーカーが必要とだれもが思っていたが、ネクラ思考の監督を変えるのは、なかなか難しかった。そこに、2軍監督の二木からメールが入った。

「育成の中におもしろいのが何人かいます。明日の練習を見に来てもらませんか?」


 翌日、泉区の練習場に行くと、二木が石山たちを出迎え、

二木「早速ブルペンへどうぞ。二人見てもらいたいのです」

 ブルペンに行くと、一人の投手が投げていた。

石山「二人では?」

二木「まあ、まず一人目を見てください」

 その投手は、175cmほどのさほど背が高い投手ではなかった。投げる球は、130kmほどの球速で、直球は棒球に近く、打ちごろの球と見えた。石山たちは、顔を見合わせ、がっかりしたような顔をした。それを見た二木が

「宮田、チェンジ!」

と叫んだ。すると、宮田と呼ばれた投手は、グラブを右手に持ち替えた。

二木「グラブは両手で使える特注品です」

 宮田投手は、左腕でも器用に130km台の直球を投げていた。

石山「両腕を使えるのは珍しいですが、投げる球が130kmでは打ち込まれるのがオチです」

二木「私も初めはそう思いました。では、マウンドで投げさせてみましょう」

 そこで、マウンドに移り、打席には最近二軍落ちした岡山が入った、岡山はタイミングがあわず、三振。次には、長距離バッターで知られる和久が立った。これも三振。3人目はあてるのがうまい東郷。2球目であてたが、平凡なセカンドゴロに終わった。

石山「どういうことなんだ? 1軍でも文句ない3人が凡退するなんて・・・」

二木「宮田は、打撃投手として育成で入ってきました。ところが、選手たちから打ちにくいと言われ、打ちやすい球を投げろと言われて、そのとおりに投げていました。コントロールがいい器用な投手です。最近、キャッチボールで左投げをしているのを見たら、使えそうなボールを投げていたので、本格的に練習させたわけです」

石山「そういうことか。渡部さん、打席に入ってみてください」

渡部「よっしゃ。バットコントロールの良さを見せてやろう」

と、首位打者を争ったこともある渡部コーチが打席に入った。意気込んで打席に入ったが、三球三振になってしまった。

二木「球が微妙に曲がるので、振り回す好打者ほど当たらないんです。ただ、欠点がふたつあります。一つ目は、セットポジションができません。セットで投げるとコントロールがきかないんです。あと、体力がないので、30球が限界です。だから育成コーチたちは支配下登録したいと言ってこなかったのです。でも、ためしにこの前の2軍戦で投げさせたら1回は三者凡退にしたのですが、2回は打ち込まれてしまいました」

石山「そうですか。それでは次の2軍戦で1回だけ投げさせてみてください。そしてそのビデオを送ってください。登録するかどうかは、それで決めます」

二木「それでは、二人目を見てください。及川、チェンジだ」

 それまで、キャッチャーをしていた及川が、ベンチにもどりプロテクターを外してもどってきた。165cmほどしかないずんぐりむっくりした体型だ。とても投手むきの体ではない。別のキャッチャーと交代し、ピッチャーとして投げ出した。8球の練習は、全て直球。投げるにつれ、スピードが上がって、スピードガンは150kmを表示した。

渡部「よし、今度こそ打ってやる」

二木「及川、最初からセットでいけ!」

とどなると、及川は腰をかがめ、キャッチャーがセカンドに投げる体勢になった。そこから素早く立ち上がり、キャッチャーのミットに投げ込んだ。ど真ん中のストライクだ。スピードガンは155kmを表示している。

小川「ヒョー! キャッチャーはスローイングがいいけれど、これは最高だ」

二木「今度は打たせてやれ」

 それで、及川は通常のワインドアップで投げた。球速は145km。渡部は当てることができたが、バットを折られセカンドゴロになってしまった。渡部の手はしびれていた。

渡部「やたら重い球です」

二木「及川にも欠点があります。まず、直球しか投げられません。それで、いつも全力投球なので、体力がもちません。実践ではまだ投げていませんが、おそらく1回しかもたないと思います。なんせ、ブルペンキャッチャーですから。でも、試合後半のランナーがいる時のピンチには使えると思います」

石山「おもしろい逸材だね。これも2軍戦で投げさせてみて、ビデオを送ってください」

二木「わかりました。それでは、次はバッターです。阿川・鈴木・佐藤、用意しろ!」

 投手は2軍で調整中の鹿島だ。スピードのあるピッチャーではないが、コントロールがいい。鹿島を打てたら、1軍でも使える可能性がある。

 まずは阿川だ。1球目からセーフティバントを3塁線に決めた。2球目は1塁線へのバント。3球目は、バントのポーズからバスターを決めた。

石山「バントの名人か」

二木「バントの成功率90%です。いざという時には、使えます。ホームランは絶対打てませんが・・・」

石山「足は速いのか?」

二木「それなりに速いですが、まだ練習中です。それと彼はムードメーカーになります。声がでかいので、試合中はやたらと声を出しています。かつてWBCで、試合にはでないけれど目立っていたKと同じタイプです」

石山「これも後で、2軍戦のビデオを送ってくれ」

二木「次は鈴木です。これまたずんぐりむっくりですが、長距離砲です。あたれば場外までとびます」

石山「ほほう、楽しみだな」

二木「ただ、確率は1割です」

たしかに、10回振ってホームランは1発だけだった。

石山「練習で1割ではまだ使えんな。練習で3割。実戦で2割まであがったら、また連絡くれ」

二木「最後は佐藤です。まるで、昔のイチローみたいなやつです」

たしかに、線の細い選手が左バッターボックスに立った。左投手の鹿島に対して、不利のはずだが、難なく3塁線に転がし、足で1塁べースを駆け抜けた。まさにイチロースタイルだ。

石山「本当にイチローを見ているみたいだ。ただ、名前が佐藤じゃな。下の名前は?」

二木「コジローと言います。ただ、守備はまだ高校生レベルです」

石山「また古風な名前だな。そう言えば、ドラフトでそんな名前のやつがいたのを思い出した。たしか育成の5位ぐらいでは?」

二木「そうです。今年の育成5位です。よく覚えていましたね」

石山「ボーッとしているように見られるけれど、記憶力はいいんだよ」

二木「ピッチャーは打者のデータを覚えないといけませんからね」

小川「先発ピッチャーは特にね」

リリーフ中心だった小川がそう言ったので、皆の笑いを誘った。

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